そんなことを考えていると、次に翠に近づいたのは秋兄だった。
 馴れ馴れしく翠に触れるその手を払いたくて仕方がない。近くにいたら、間違いなく秋兄の手を払っていただろう。そんなことをせずに済んだのは、俺がある程度離れた場所から翠を見ていたから。

 秋兄にエスコートされる翠を見ながら思う。今日、俺はあの手を取ることができるのか、と――。
 翠がどんな着物を着るのかは事前に知っていた。それを着ているところを想像もした。でも、実際に着ている姿はじっと見ることが難しかった。
 あまりにもきれいすぎて――紅を引いた唇に、視線が引きつけられて仕方がない。
 ほかの人間の目にはどう映っているのか、と思えば、きれいに装った翠を愛でるのではなく、蹂躙したい気持ちが生じる。そんな自分に戸惑いを隠せなかった。
「俺はケダモノか……?」
 何をこんなに動揺しているのか――。
 こんな感情を持ったまま翠に会うのは憚られ、俺は嫌いな親族たちの中を縫って歩き、辛辣な言葉を方々に吐き散らしていた。