藤の会当日、じーさんの鶴の一声で翠のエスコート権を剥奪された。
 ハイヤーから出てくる翠の手を取るのは自分だと思っていただけに、鳶に油揚げをさらわれた気分。

 樹齢百年以上と言われる大藤棚は五百畳敷きの藤棚。そこへ案内された翠は母さんの点てたお茶を口にした。
「カフェイン、受け付けないくせに飲むなよ……」
 いつもの翠なら申し訳ないと思いながらも飲めない意を伝える。それをしなかったのは、人の視線が集まる場でのことだったから。
 やっぱり来ないほうが良かったんじゃないのか……?
 翠が俺たちに関わるところを人に見られるのはごく限られた場所でのこと。
 学園、マンション、病院、ホテル――学園やマンションには関係者以外は立ち入ることができないし、病院では検査の順番など、多少融通を利かせることがあっても表立って特別扱いされているようには見えない。ホテルであっても同様のことが言える。ならば、翠が高校を卒業するまでは表舞台に引っ張り出す必要はなかったのではないか、と思わざるを得ない。