「あぁ、楓が来たね」
「え?」
「ほら、あそこ」
 東屋に続く小道の先に、袴姿の楓先生と昇さんが立っていた。
「今日は藤宮の男性陣がこぞって翠葉ちゃんをエスコートしにくるよ」
「……元おじい様の指示って、本当なんですか?」
「本当だよ。実際問題、じーさんの庇護下にいることがわかれば手を出してくる輩や絡んでくる人間はいないと思う。それでも、じーさんの力には及ばなくとも一定の付加価値になるのなら、俺たちのことも使うべきだ。……面倒な一族でごめんね」
 私は息を吐ききってから吸える限りの酸素を吸い込み、肩をストン、と落とすと同時に再度息を吐き出した。
「覚悟はできた?」
「覚悟はできているつもりでした。でも、ここへ来たら人の視線に萎縮してしまって……。正直、こういう場は苦手です。あの庭園へ戻るのは気が進みません。……それでも、必要なら戻ります」
「格好いいね……。そんなに格好いいところを見せられたら、やっぱり諦めるのは無理そうだ」
 不意に秋斗さんの顔が近づいてきて、右頬にキスをされた。