置かれている家具すべてが売り物だと言われても疑いようのない品が並ぶ中、俺は接触事故が起きないように、と通路の中央を歩くよう心がけた。応接室へ入ると、
「この子が唯芹よ。私たちの三人目の子ども。名前は唯芹で届けてあるけれど、私たちは唯って呼んでいるの」
 背に碧さんの手を添えられ紹介された。このとき、間違いなく俺の顔は引きつっていたと思う。
「唯芹、です――」
 言いなれない名前を口にして、ほかにどんな言葉を添えればいいのか、と逡巡する。「よろしくお願いします」というのが適当そうだけど、こっちからよろしく願い申し出るだけでもおこがましく思えてしまう。
 頭を上げられずにいると、
「唯、そんなにかしこまらなくていいわ。私の両親なんだから、あなたの祖父母よ」
 碧さんはそう言ってくれるけれど、対面するふたりからは硬質な空気しか感じない。間違いなく歓迎はされていない。そこへ朗らかな声が割り込んだ。