翠は少し歩調を緩めて俺の顔を見上げた。
 正直、その視線に耐えられる精神状態ではなく、
「そんなに見るな」
 ぞんざいに歩調を強めると、後ろから小走りでついてきた翠に、つないでいた左手を引かれた。
「エスコート、してくれるのっ!?」
「させてくれるなら」
 エスコート、という言葉にいくつかの過去を思い出す。
 生徒会就任式のとき、紅葉祭のとき。そして――パレスでの一件。
 翠はそれらの何を思い浮かべたのか、
「あのときとは状況が違うもの……。エスコート、してもらえるなら……お願いしたい」
「了解。……あとでその日に着る振袖見せて」
「うん!」