数メートル先の角を曲がれば藤棚、という場所にさしかかったとき、
「御園生」
 鎌田のものと思われる声が聞こえてきた。俺は足を止め、建物の陰に身を潜める。
「俺、中学のときからずっと御園生のことが好きなんだ。……御園生は今好きな人とか付き合ってる人、いる?」
 それに対する翠の返事は聞こえてこなかったものの、
「それって藤宮くん?」
 鎌田の言葉で翠がなんと返事をしたのかは想像ができた。
 サワサワと葉が擦れ合う音がする中、
「あのさ」
「あのっ」
 思い切って声を発しました。そんな声がふたつ見事に重なる。
「俺から言ってもいい? ――俺、振られちゃったけど、これからもメールとか送ってもいいかな? 今までどおり、友達として……」
 ……友達としてメール――何度考えても俺にはその概念が理解できなかった。