仙波さんを見送りふたりになると、
「レッスンを見学したご感想は?」
 翠は俺の反応を楽しむように顔を覗き込んでくる。
「休憩時間以外、本当にレッスンに関する会話しかしないんだな」
「うん、時間がないからね。ずっとレッスンを続けてきていたら、たぶん週に一度一時間のレッスンでよかったと思うの。でも、私はブランクがあるうえにスタートが遅かったから、レッスン時間が二コマ。ただ、レッスン時間が長くなっても、それだけのことを吸収できなかったら意味がないし、翌週までに二コマ分の課題をこなさなくちゃいけないから、それはそれで本当に大変だし、なんというか常に必死」
 今日のレッスンを見て、仙波さんや翠からどういう状況なのかを聞いてしまうと、自分の嫉妬がものすごく愚かしいことに思えてきた。
 なんとも言えない気持ちで、
「悪い……」
「ん?」
「嫉妬とか……本当に、悪い」
 翠はクスクスと笑った。
「もう大丈夫?」
「……なんとも思ってない」
「うん。なら良かった」
 それは俺を甘やかしすぎじゃないか?
 そんな思いで翠を見ると、翠はにこりと笑ってこう言った。
「嫉妬って……たぶん自分でコントロールするには手に余るような感情だよね。だから、それは仕方ないし、そのたびにひとつひとつクリアにしていけたらいいな、って思う」
 それで話は終わり、とでも言うように、翠は問題集を開き、問題を解き始めた。
 翠を見ながら思う。
 こういう精神面で、俺は翠に甘やかされているのではないだろうか、と。
 それも、さもなんともないことのようにさらっと。
 俺はそんな優しさを翠に向けられているだろうか。
 考えながら、翠の間違いを指摘する時間を過ごした。