ツカサが教室に入ってくると、慣れないクラスメイトはとても控えめにざわつく。
 けれど、一年のときと同様、ツカサがクラスメイトの目を気にする様子はまったくない。
 何を言わずとも海斗くんが席を譲り、前の席にツカサが収まる。
「今日、通院日?」
「うん。帰りに病院へ行く予定」
「それ、送迎するから」
「え……? 学校が終わったら唯兄が迎えに来てくれることになってるから大丈夫よ?」
 ツカサは携帯を取り出すと、おもむろにどこかへかけ始めた。
「――翠の病院の送り迎えですが、自分が付き添うので不要です。じゃ――」
 ツカサはそれだけ言うと通話を切ってしまった。
 見たところ、会話をしていたようには思えない。
「えぇと……もしかして、唯兄に電話した?」
 尋ねた直後、自分の携帯が鳴り出す。
 着信相手は唯兄。
「もしもし、唯兄?」
『今、超絶一方的な電話がかかってきたんだけど、何あれっ』
「うん、目の前で見てた……」
 これには苦笑せずにはいられない。
「なんか、ツカサがとっても過保護なの……」
『あー……責任感じてるっぽかったもんね。そっかそっか……じゃ、司っちに送ってもらいな。帰りは?』
「送ってくれるみたい」
『わかった。じゃ、俺行かないからね?』
「うん、ごめんね。ありがとう」
 ツカサは涼しい顔でお弁当を広げ始める。
 一連のやり取りを見ていた周囲はというと、「何も言うまい」と言わんがごとく、皆静かにお弁当を食べ始めた。