怪我をしてからというもの、ツカサの過保護に拍車がかかっていた。
「今日も来るの?」
 桃華さんに尋ねられ、私は「ごめんね」と返事をする。
 何って、週に三回食堂で食べていたツカサとのランチの場が、二年A組の教室に変更になったのだ。
 それは足を怪我している私の移動に時間がかかるという理由もあるけれど、第一には怪我した足で階段の上り下りをさせたくない、というツカサの意向による部分が大きい。
 とはいえ、校舎内はエレベーターの使用許可が下りているし、食堂と校舎をつなぐ連結部分にはスロープだって存在する。
 つまり、階段の上り下りする場所はないのだけど、怪我した私を極力動かしたくないというツカサの気遣いにより、こういうことになっている。
「松葉杖になったから食堂でも大丈夫って言ったんだけど、移動させるのが嫌みたいで……」
「もしかして、登下校も一緒だったりする?」
 海斗くんに尋ねられ、私は苦笑と共に頷いた。
「車椅子のときは家族やコンシェルジュに送り迎えしてもらっていたのだけど、松葉杖になったらツカサが朝迎えに来てくれるようになった。さらには警護班の車まで用意されてどうしようかと思っちゃった」
「くっ、すげぇ司らしい」
 本当は歩いて登下校したかったのだけど、歩くときの振動が患部に響くことを見破られ、さらには患部をあまり動かさないほうが治りが早いと諭され、ツカサの警護班のお世話になることになった。
 この際、誰かに送り迎えされるのは仕方ないとして、ツカサが毎朝迎えに来てくれるのはどうなんだろう……。
「そこまでしてくれなくていい」と何度も丁重にお断わりしたけれど、それは受け入れてもらえなかったのだ。
 怪我をしたのはツカサのせいじゃない、とどれほど言ってもツカサは呑み込めないらしく、結果、普段より数割増し過保護なツカサの出来上がり。
 それを周りは面白がったり感心したり様々な視線を向けてくる。
「翠葉ちゃんてば大事にされてるよね?」
 美乃里さんの言葉に頷くことで同意する。と、
「文武両道、眉目秀麗、冷静沈着、品行方正。四字熟語が揃いに揃ったうえ、彼女以外の女子とはほぼ喋らず彼女一筋だなんて、まるで少女マンガに出てきそうな王子様よね。女子が騒ぐわけだわ」
「香月さん、褒めすぎよ。第一、品行方正は当てはまらないと思うわ。見たまんま腹黒いし性格に難ありよ?」
 桃華さんの指摘にその場に集っていたメンバーが吹き出す。
「四字熟語っていうなら、唯我独尊とか独善主義、厚顔無恥、遼東之豕じゃないかしら」
 次々追加される四字熟語に、みんなはカラカラと笑い声をあげた。けれど、ひとり海斗くんが異を唱える。
「独善主義や厚顔無恥は当てはまるかもしれないけど、唯我独尊、遼東之豕あたりはちょっと違うかな」
「何がどう違うのよ」
「司の場合、自分が誰よりも偉いとか優れてるって思ってるわけじゃなくて、周りの人間が自分より頭が悪いと思ってる程度。それも見下してるわけじゃなくて、あくまでもそう認識してるってだけ。現に、自分より知識のある人間や、秀でた人間のことはきちんと認めてるし」
「ふーん……それでも独善主義や厚顔無恥が当てはまるだけでどうかと思うわ」
 そんな話をしているところへツカサがやってきた。