「迎えに来てくれてありがとう。でも、どうして? 昨日電話で話したときは何も言ってなかったのに。……あ、もしかして今日から松葉杖って話したから心配して来てくれたの?」
「それもあるけど……」
 ツカサは歯切れ悪く口を閉ざす。
 足の心配以外に何かあっただろうか……。
 考えていると、
「ライブ、どうだったの?」
「すごかったっ! 一番最初はヴァイオリンのソロで、二番目がジャズシンガー。三番目が今日のチケットをくれた人たちのグループだったのだけど、そこはヴァイオリンふたりとヴィオラ、チェロのカルテットで、最後が慧くんのピアノだったの! 私、ジャズシンガーの歌を聴くのも弦楽四重奏をちゃんと聴くのは初めてで、何もかもが新鮮だった。ライブハウスってすごいのよ? 開場時間ぴったりに行くとステージの目の前の席に座れたりしてね、アーティストとの距離が二メートルくらいなの! 今まで大きなホールでしか演奏を聴いたことがなかったから、より近くで感じる音の振動に鳥肌立っちゃった!」
 思いつくままに話していたけれど、隣からはなんの反応も得られない。
 少し不安に思って、ツカサの顔をうかがい見る。と、ものすごくつまらなさそうな顔をしていた。
「ごめん。私、はしゃぎすぎ?」
「いや別に……。楽しかったならよかったんじゃない」
 なんだろう……言葉の並びはいつもと変わらないのに、中身が伴わない空っぽみたいな響きだった。
「まだ、機嫌悪い……?」
「自分以外の男に会いに行って、嬉しそうに話している彼女を見て機嫌のいい男はいないと思う」
「でも、演奏を聴きに行っただけだよ?」
「演奏を聴きに行っただけで話したりはしなかったって言いたいの?」
「あ、ごめん……ステージが終わってから少しだけ話しました……。でも、本当に少しだけよ? 今日はずっと先生と一緒だったし……」
 それ以上に言えることがなくて困っていると、
「悪い……」
「え……?」
「今の、なしで……」
 ツカサはひどく気まずそうな顔をしていた。
 でも、なんと声をかけたらいいのかわからなくて、私は無言で俯いていた。