駅のロータリー、一般レーンには五台の車が停まっていた。そのうちの前から二台目が秋斗さんの車。
 助手席の窓から運転席を覗き込むと、ツカサは眉間にしわを寄せていた。
 私たちに気づくと、さらにしわを深める。
 見るからに不機嫌そう。
 そんなツカサを見るなり、
「くっ、仏頂面」
 秋斗さんは楽しそうに笑うけど、不機嫌の要因は秋斗さんにあると思う。
 でも、私がそれを言えるはずもなく、やり場のない思いはため息でつくことで吐き出す。
「大丈夫、翠葉ちゃんが助手席に座れば機嫌も直るよ」
 秋斗さんは助手席のドアを開くと、私から松葉杖を取り上げた。
 秋斗さんに支えられながら助手席に腰を下ろすと、
「司、無茶な運転はするなよ」
 助手席のドアを閉めた秋斗さんは、後部座席のドアを開けると松葉杖だけを収納する。
 秋斗さんが乗らないことを不思議に思って尋ねると、
「そこまで野暮じゃないよ。帰りはふたりでどうぞ」
 そう言って、秋斗さんは手をヒラヒラさせながら去っていった。
 その場に残されてポカンと口を開けていると、
「後続車は警護班の車」
 言われて納得した。秋斗さんはその車に乗って帰るということなのだろう。
 ツカサは周囲の確認をすると、ゆっくりと車を発進させた。