ふたりを見送り、私と秋斗さんは駅へ向かって歩き出す。
「松葉杖には慣れた?」
「コツはつかめたと思うんですけど、まだちょっと慣れなくて……」
「ここまで車で来ればよかったね。なんなら、近くに警護班がいると思うから来てもらう?」
「あ、いえ、そこまでは……。ところで、どうして秋斗さんがお迎えに? 唯兄、仕事が忙しいんですか?」
 それなら秋斗さんも同様に忙しいはずだし、唯兄が来られなかったとしても、蒼兄なら来られたんじゃ、という思いがよぎる。
 あ、もしかしたら蒼兄は駅のロータリーで車に乗って待ってるのかも?
「仕事はとくに忙しいわけじゃないかな?」
 ならどうして……?
「俺が翠葉ちゃんに会いたかったから」
 何度となく言われてきた言葉に私は戸惑う。
 もう、気持ちが揺れることはない。秋斗さんの想いを断わることが秋斗さんを拒むこととイコールではないことも理解している。
 それでも、心ある言葉を軽くあしらうことはできなくて、こんなふうに想いを告げられるたびに言葉を詰まらせることはどうにもできそうにない。
 そして、そんな私を見越したように、秋斗さんは次の言葉を口にするのだ。
「っていうのは本当だけど、冗談」
 秋斗さんの優しさに、胸がチリ、と痛んだ。
 秋斗さんは私に何を望んでいるのだろう。どんな対応を望んでいるのだろう。
 悩みながら、歩みだけは止めないように、と慣れない松葉杖を必死に繰り出す。
「実は、迎えに来たのは俺だけじゃないんだよね」
「え……?」
「支倉駅のロータリーで司が待ってる」
 どうして、ツカサ……?
「夕方に司が尋ねてきたんだ。車を貸して欲しいって。すぐにピンと来たよね。翠葉ちゃんを迎えに行きたいんだって」
「でも、どうして秋斗さんのところへ……?」
 いつもなら、涼先生の車を借りるのに……。
「考えてみて? こんな時間に涼さんが車を貸すと思う?」
「思いません……」
「でしょう? 次に司が頼るとしたら楓なわけだけど、今日は夜勤でいなかったらしい。そしたら、消去法で俺しか残らないよね」
 苦笑を浮かべた秋斗さんにつられて愛想笑いを返す。
「司は車だけ貸してほしかったみたいだけど、俺も司の運転する車には乗ったことがなかったし、大事な翠葉ちゃんのお迎えともあらば心配にもなる。だから、ついてきちゃったんだ」
 にっこりと笑った秋斗さんは愉快そうに、
「ついでだから、ライブハウスまで迎えに行く権利も強奪」
 そう言って、片目を器用に瞑って見せた。