一階フロアでは「Seasons」のメンバーが慧くんを待っていた。
「慧、飯食いに行くだろ?」
「行く行くっ! 翠葉と弓弦も一緒にどう?」
「慧くん、彼女は高校生ですよ? ライブならともかく、夜遅くまで連れ回すわけにはいきません」
「あ、そっか。翠葉はこっからどうやって帰んの? また迎えが来るとか?」
「支倉駅まで兄が迎えに来てくれることになっています」
「じゃ、駅まで送りましょう」
「俺も行く。夏、先行ってて? 俺、翠葉送ってから行く」
「了解」
「翠葉ちゃん、今日は来てくれてありがとうね」
 チェロ奏者の遠野さんに声をかけられ、
「こちらこそ、チケットありがとうございました。演奏、とてもすてきでした。今日はお花も持ってこられなくてすみません……」
「そんなこと気にしなくていいよ。その代わり、また遊びに来て? 足、お大事にね」
 そう言うと、四人は大きく手を振ってビルを後にした。
「じゃ、僕たちも駅へ向かいましょう」
 先生に促されてビルの外へ出ると、
「あ、こないだのイケメン」
 え? 唯兄?
 慧くんの視線をたどると、思わぬ人物にたどり着く。
 秋斗さんが歩道のガードレールに身を預け立っていた。
「え? 秋斗さん? どうして……?」
 秋斗さんは反動をつけて立ち上がると、三歩で目の前までやってくる。
「翠葉ちゃんのお迎え」
 にっこり笑顔で言われても、クエスチョンマークが消えることはない。
 帰りは唯兄と蒼兄がふたりで迎えに来てくれる予定だったのに、どうして……?
「翠葉ちゃん、携帯サイレントモードのままでしょ? 唯も俺も、何度か連絡したんだけど連絡つかなかった」
「あっ――」
 慌ててポシェットの中から携帯を取り出しサイレントモードを解除する。と、着信が四件、留守電が二件、メールが二通届いていた。
 着信は唯兄と秋斗さん。メールも同じだ。
 メールに目を通すと、唯兄からのメールには秋斗さんが迎えに来てくれる旨が書かれていた。そして、秋斗さんからのメールにも自分が迎えに行くから、ということが書かれている。
 でも、それらは単なる連絡事項に過ぎず、「どうして」という疑問は解消されない。
「どうして」の部分を再度問おうとしたとき、
「御園生さん、こちらは? ご家族の方……ですか?」
 先生は質問しながらもどこか納得いかないような表情をしていた。
 たぶん、兄妹にしては年が離れすぎていることを疑問に思ったのだろう。
「あの――」
 反射的に言葉を発して、次の瞬間には口を閉じることになる。
 困った……。
 一週間前にも悩んだけれど、秋斗さんを人に紹介するのはやっぱりすごく難しい。
 秋斗さんとの関係性を一言で表す言葉などあるのだろうか。