ちょっとした焦りを感じていると、
「今からでもホームレッスンへ切り替えることは可能ですよ?」
「……そうしたほうがいいでしょうか?」
「むしろ、支倉まで通ってくることにメリットはあるんですか?」
「……大学へ通うようになれば、電車通学をすることになります。でも私、電車通学はしたことがなくて、今からそれに慣れておかなくちゃと思って――」
 先生はきょとんとしたあと、くつくつと笑いだした。
「御園生さんはすごいですね。もう大学に受かって通うことを考えていたんですか?」
 そこまで言われてはっとする。
 私はまだ大学に受かったわけでもなければ、受かる可能性が高いわけでもないのだ。
 恥ずかしい――
 顔を上げていることに耐えられず俯くと、
「先のことを考えて行動するのは悪いことじゃありません。でも、まずは受かるための努力をしませんか?」
「……はい。でも、ホームレッスンになったら先生も変わってしまいますよね?」
「……それは、僕のレッスンがいいということですか?」
「はい。先生の指導はとてもわかりやすくて、自分に何が足りていないのか、どんな練習が必要なのか、その都度その都度きちんと納得して進むことができたので。それに、ようやく慣れてきたのに違う先生に代わってしまうのは抵抗があります」
「それもそうですね……。ものは相談なのですが、御園生さんのレッスン、今は日曜日ですが、ホームレッスンなら平日でも平気だったりしますか?」
「え?」
「今は学校の都合で日曜日って話でしょう? ホームレッスンでも変わりませんか?」
「いえ……自宅までいらしていただけるなら平日でも大丈夫です。遅くても七時までには帰宅しているので、それ以降でしたら……」
「マンションって話でしたが、七時以降でもピアノは弾けるんですか?」
「はい。完全防音されているので、問題ありません」
「……なら、大丈夫かな? 僕、ミュージックスクールで講師やっているのは日曜日だけなんです。ほかは大学の出張所へ出向くことが多いのですが、ライブやリサイタルがある日以外、夕方以降はフリーなので」
 それはつまり――
「ホームレッスンでも先生のレッスンが受けられるんですか?」
「そういうことになりますね。それに、平日がそれだけ自由になるなら、受験前の集中レッスンも問題なさそうですし……。なので、ソルフェージュも僕が見ますよ」
 そう言うと、先生はにこりと笑った。