どの音もそれぞれの良さを感じるけれど――
「このピアノの音色が一番好きです」
 前園さんはにこりと笑んだ。
「同じメーカーで同じグレードのピアノであったとしても、調律する人間によって音色は千差万別。お持ちのピアノをまったく同じ音色にすることはできませんが、この音を気に入られたのでしたら、この調律師の調整した音は、お好みの音になるかと思います」
「え……? あの、このピアノを調律した方が調律してくださるんですか?」
「はい。こちらは弓弦さんが調整なさったピアノですので、弓弦さんが担当することになります」
 教えられて驚く。
 先日本人から聞いて知ってはいたものの、こんなにすてきなピアノに仕上げられるなんて……。
 調律師を本職としている人にだって引けをとらないのはないだろうか。
 唖然としていると、
「調律の日程を調整いたしますので、奥のカウンターまでお越しいただけますか?」
「はい」
 そこで日にちの相談をしていると、仙波先生がやってきた。
「……あれ? 僕の予定確認をしてるってことは――」
「えぇ、弓弦さんの調律なさったピアノをお選びになられましたので」
 すると先生は嬉しそうに目を細め、
「それでは、責任を持って調律させていただきますね」
「よろしくお願いします」