「いいなぁ……ライブ。いいなぁ……。翠葉ちゃんはライブ行ったことある?」
「ううん、初めて。いつもは大きなホールで行われるような演奏会にしか行かないから」
「そうなんだ?」
「柊ちゃんはよく行くの?」
「んー、友達のライブを見に行くとか、うちの音楽事務所に所属しているアーティストのライブやコンサートに行くとか、その程度?」
 風間先輩もライブハウスでライブをしたりするのだろうか。
 そんなことを考えていると、
「でもね、サウザンドウェーブのライブは別格っ!」
「サウザンドウェーブ」とは、今日行くライブハウスの名前。
「あそこはオーディションを受けて、一定のクオリティをパスしないと演奏させてもらえないの。だから、いつ行ってもハズレなしなんだよ!」
「そうなんだ……」
 そんな話をしていると、仙波先生がレッスンを終えて生徒さんと出ていらした。
 柊ちゃんは生徒さんをお見送りすると、すぐに仙波先生に声をかける。
「四時からレッスンの河田さん、お仕事でトラブル発生らしくてレッスンキャンセルです」
「そうですか。今日はキャンセルが多いですね?」
「そう言われてみれば……。翠葉ちゃんのレッスンもお休みだし、四時からの河田さんもお休み、五時からの桃井さんも風邪でお休み……」
 指折り数える柊ちゃんの隣で、先生はレッスン枠を確認するようにノートを覗き込んでいた。
「……あれ? じゃ、今のレッスンでラスト?」
「……あ、本当だ。もうこのまま上がれちゃいますね?」
 先生は何か思いついたように私を見て、
「御園生さん、ピアノの件ってどうなりましたか?」
「あ、持ち主から承諾得られました」
「ということは、調整してかまわないということですか?」
「はい」
「じゃ、ライブ前にうちの楽器店へ寄って、好みのキータッチや音色を確認しましょう」
「はい!」
 私と先生は、柊ちゃんの羨望の眼差しを受けながら音楽教室を出た。