私たちは料理の感想を述べたり藤山に咲く花の話をしたり、他愛のない会話を楽しんでいた。そこへ、カタンと椅子を引く音が割り込みびっくりする。
 反射的に音のした方を見ると、そこには「不機嫌」を具現化したような人間が立っていた。
「ツカサ……?」
 ツカサは手に持っていたお弁当をテーブルに置き、無言で着席する。
 口を開いたかと思えば、
「突然学校に来るとかなんなの? そのうえ翠を呼び出すとか本当迷惑なんだけど」
「迷惑じゃったかの?」
 今日二度目の質問に、
「迷惑ではないです」
 私が答えると同時、
「翠が面と向かって『迷惑』とか言うわけないだろ。そのくらい察しろ」
「じゃが、わしがここに来たことでいくらかは牽制にはなるじゃろうて」
 朗元さんの視線が私の足に注がれ、私は息を呑んだ。
 あぁ、そうか……。朗元さんはそのために来てくれたのね。
 人目に触れる必要があったから、それが目的だから「食堂」だったのね。
「それで翠がどんな目で見られ、緊張を強いることになるとしても?」
「そうじゃのぉ……」
 朗元さんは口髭をいじりながら私に視線を向ける。
 それは私を窺っているような表情だった。
 私は息を吸い込み、
「元おじい様、お気遣いありがとうございます。それからツカサも、ありがとう。……でも、大丈夫です。大丈夫っていうか、仕方ないっていうか……。付加要素っていうか……。この先も、私は注目を浴びるようなことには慣れないと思います。でも、ツカサたちと付き合っていくなら避けて通れないことくらいは理解したつもりだし、もうその辺は諦めようかな……?」
 無理やり笑みを浮かべると、朗元さんは嬉しそうに笑い、ツカサは少し驚いたような表情で固まっていた。
「えぇと……だからね、今はおいしくお弁当を食べよう? この場だと、私は人に見られていることを意識するよりも、元おじい様とお会いできたことを喜んでいるほうが圧倒的に幸せだと思うの」
 すると、朗元さんは声を立てて笑い、ツカサは深く深くため息をついた。
 けれど、同意はしてもらえたようで、ツカサはテーブルに置いたお弁当箱を広げ始める。
 そのお弁当箱は食べかけの状態で――
 もしかしたら、お弁当を食べている途中で朗元さんが学校に来ている噂を耳にして、放送と関連付けて急いでここに来てくれたのかもしれない。
「ツカサ、ありがとう」
「何が……?」
「来てくれて」
 短く伝えると、ツカサは照れ隠しのように「別に」と口にした。