「翠葉、お弁当食べないの?」
「あ……えと、今日は持ってきてなくて――」
「どうして……? 学食にでも興味持った?」
「ううん、そういうわけでもなくて……」
「……どういうこと?」
「うーん……どういうことだろう?」
 桃華さんの質問に答えることができず、自分がどうしたらいいのかもわからずに困窮していた。
 いつもなら、学校へ行く支度をしてリビングへ行くと、カウンターにお弁当が置いてあるわけだけど、今日はカウンターに何も置かれていなかった。
 キッチンを覗いても、お弁当を作り途中というわけではなさそうで……。
「お母さん、お弁当は?」
 尋ねると、お母さんはにこりと笑ってこう言った。
「今日は作ってないの。でも、心配しなくていいわ。お昼には届くから」
「どういうこと?」
「さぁ、どういうことかしら?」
 お母さんは理由までは教えてくれなかった。ただ、お昼になって私がお弁当を食べられずに困ることにはならない、そう教えてくれただけ。
 でも、今現在、私は困っているのだけど……。
 このままいたら、時間だけが経過してお昼を食べ損ねてしまう気がした。
 お母さんに電話してみようかな……?
 そう思い始めたころ、校内放送が流れた。
『二年A組御園生翠葉さん、至急食堂まで来るように』。
 そんな放送が二回繰り返された。
「変な放送ね?」
 桃華さんがそう言うのもわからなくはない。
「職員室の誰先生のもとへ来るように」というような放送なら聞き慣れているけれど、「食堂」まで来るように」とはどういうことか。
「食堂」と一言で言っても、桜林館の二階フロアすべてが食堂なのだ。
 私は食堂の何をめがけていけばいいのだろう。
「誰か先生が待ってるのかな……? とりあえず、行ってみる」
「お昼ご飯はどうするの?」
「んー……お財布を持っていって、売店でパンを買おうかな」
「車椅子、慣れてないだろ? 送って行こうか?」
 海斗くんに尋ねられ、私はひとりで行く旨を伝えた。
 まだしばらくの間は車椅子生活なのだから、これにも慣れなくてはいけないと思って。