これは、「どんな人間?」と尋ねられてるのかな。
「感性豊かな人間」
 言って、無理やり口角を引き上げる。
「にしてもおまえ、耳ざといよなぁ……。普通、あんな会話聞き流すだろ? ってか、聞き流せよ」
「だって、違和感があって……」
「ずいぶんいいセンサーお持ちなこって……。まぁさ、中途半端に知るくらいならなんで亡くなったのかくらい知っておいたら?」
 翠葉は戸惑うままに視線を彷徨わせていた。すると弓弦が申し訳なさそうに頭を下げた。
「配慮が足りなくて申し訳ありません」
「いえっ、あのっ――」
 顔を上げた弓弦はにこりと笑顔を作り直し、
「慧くんが言うことも一理あるので、少しだけ姉の話をさせてください。実は、とっても元気な人だったのですが、ある日突然白血病になりまして、骨髄移植もしたのですが、八年前、あのコンクールの翌日に亡くなりました」
 おいおい、ずいぶん簡単な説明だな。ま、このくらいサラッと話すくらいがちょうどいいのかもしれないけど。
 しかし、翠葉はさらなる衝撃を受けたように身体を震わせる。
 俺は頭を撫でていた手を背中へ移し、力の入った背をさすった。
 手のひらに肩甲骨が触れ、見かけ以上に華奢な身体つきに驚く。
 病気で留年するくらいには身体が弱いのかもしれないし、それがゆえ「人の死」というものに敏感に反応してしまうのかも……。
「そんなわけで、あの年のコンクールに僕は出ていないんです。その後も通夜だ告別式だなんやかやとバタバタしていて、コンクールの結果も把握しておらず、慧くんが二位入賞だったと知ったのは二ヶ月ほど経ってからのことでした」
 弓弦は空気を換えるべく窓辺へ向かい、分厚い窓を開け放った。
「慧くん、飲み物はコーヒーでいいですか?」
「砂糖三つにミルク多めっ!」
「今日は蓼科さんがいるので違わず淹れてくれますよ。それから御園生さん、チョコレートはお好きでしょうか?」
 翠葉は首を傾げる。
「ほら、チョコレートは好きかって」
「あっ、大好きです」
 慌てて答える彼女を弓弦は笑い、
「では、美味しいチョコレートを持ってきてもらうので、それまでに泣き止んでくださいね」
 そう言うと、弓弦はデスクの上にある電話に手を伸ばした。