食後リビングへ移動して、
「さっき大学で一緒にいた人たち、誰?」
 ずっと気になっていたからか、若干ストレートすぎる物言いになった気がしなくもない。
 でも、話を逸らされたくはなかったし的確な答えが欲しくて、気づけば翠の持っていたカップを取り上げ詰め寄っていた。
「ロータリーから見えた。タキシード着てる男たちに囲まれてるの。ピアノの先生には見えなかったけど?」
 翠はびっくりしたような顔で、口をポカンと開けている。
「誰?」
 もう一度尋ねると、翠の口元がふるふると震え、締まりなく緩み始めた。
 次の瞬間には腕に勢いよく抱きつかれ、カップのお茶を零しそうになる。
「ツカサ、好きっ!」
「それ、返事になってないんだけど……」
 っていうか、脈絡なくそういうこと言うのやめろ。心臓が止まりそうになる。
 翠は満面の笑みを浮かべて、
「あのね、今日、すっごく色んなことがあったの。全部、全部全部聞いてくれる?」
 あまりにも嬉しそうに話す翠がかわいすぎて、つい快諾しそうになる。
「聞くけど、その前に回答……」
「うん」
 翠はすぐに口を開き、
「あのとき一緒にいた人たちは――えぇと、やっぱり最初から話したい。だめ?」
 だからその上目遣い、反則――
 だめなんて言えるか……。
 俺はため息を着いて了承した。

 翠は話す準備を整えるべく、ソファに上がりこむ。そして、俺にぴとりとくっつき遠慮気味に腕を絡めた。
 その手を自身の手で包み込むと、翠はいっそう嬉しそうに笑いその手を見つめていた。しかしその頭は徐々に傾いていく。
 何を考えているんだか……。
 そんなことを思いつつ、もうひとつの気になっていたことを尋ねる。
「秋兄とは?」
「え?」
「今日一日一緒だったの?」
「ううん、柊ちゃんと合流するまでの二、三分くらい。なんか、仕事のような趣味のような市場調査って言ってたけれど、なんだったんだろう?」
 蔵元さんと唯さんが一緒にいたからなんとなくの予想はついていた。
「たぶんだけど、大学の警備体制を調査してたんだと思う」
 翠は心底不思議そうな顔をして、
「どうして……?」
「翠の進路先が芸大に決まったとき、速やかに対処できるように、じゃない?」
「警護班が動くだけじゃだめなの……?」
「今は藤宮だから問題ないけど、他大学になると警護班も動きづらい。おそらく、警護班が学内に入る許可はとるつもりだろうけれど、学内の警備会社が藤宮ならそんな許可を取る必要はなくなる」
「でも、私が芸大に入ったとしても、短大なら二年だし、長くても四年のことよ……?」
「別に問題ないだろ? 藤宮警備にしてみたら、契約先がひとつ増えるだけのこと」
 翠は要領を得ない様子で、「ふーん」と納得の意を示した。