大学のロータリーに着くと、門柱の向こうに秋兄の姿が見えた。そして、人の合間から翠の姿も見えたわけだけど、どうしてか背後に見知らぬ男が数人――。
「一緒に行くのは女じゃなかったのか……?」
 秋兄が近付くなり翠の額へ手を伸ばす。
「発熱……?」
 未だ翠の了解が得られず翠のバイタルを知ることができない状況に苛立ちを覚える。と、男数人はすぐにいなくなり、翠は唯さんたちに囲まれた。
 携帯を意識するものの、それが鳴り出す気配はまるでない。
 まだ一、二分しか待っていないというのに、自分がイラつき始めているのを感じていた。
 翠と秋兄が一緒にいるのを見ているのが原因か……。
 視界からふたりを外しても、やはり気になる思いまで払うことはできず、気づけば翠の番号を呼び出していた。
 通信がつながると、
『ツカサごめんっ。すぐ行く』
 すぐさま通話が切れ、その十数秒後には唯さんに車椅子を押された翠がやってきた。
 助手席に収まった翠はこちらをうかがうような表情で、
「ごめんね、待たせちゃった……?」
「少し……」
 嘘はついていない。一分以上五分未満なら「少し」は適応すると思う。
 でも、良心が痛むのはなぜなのか……。
「怒ってる……?」
「別に……」
 怒ってはいないけど、間違いなく虫の居所は悪い。
 おそらくこれは、自分以外の男といたことへの嫉妬――
「今、秋斗さんたちと一緒にいたから?」
 図星をつかれ、脊髄反射張りの返事をしてしまった。
 つまりは否定したわけだけど、その否定は受け入れられず、
「だって、顔が不機嫌そう……」
「…………」
 翠がほかの人間といることは不可抗力だし、俺が嫉妬するのも不可抗力。
 ……いや、不可抗力なのか?
 もっと俺の心が広ければ、嫉妬などしないのだろうか。
 俺、もしかして狭量……?
 否、もし秋兄が俺でも嫉妬したと思う。
 ……秋兄と自分を比べることに意味はあるのだろうか――
 それなら、海斗なら? 優太なら? 朝陽なら……?
 考えたところで、こんな話をしたことがないのだからわかるはずもない。
 そして、自分以外の人がどう感じるものなのか、と疑問に思ったところで、誰に訊ける気もしない。
 悶々としていると、 
「唯兄がね、ご飯たべておいでって。五千円もらっちゃった」
 唐突な物言いに驚いて隣を見ると、唯さんから受け取ったであろう五千円札を印籠のように見せる翠がいた。
「あっ、ツカサがだめ? ……そうだよね、急じゃ真白さんもご飯作っているだろうし……」
 翠はすぐさま金を引っ込め、お腹のあたりに引き寄せた両手に視線を落とした。
 俺は小さくため息をつく。
 翠の誘いを断わることなどあり得ないのに、こいつは……。