そんな視線に気づいたのか、
「たぶんだけど、大学の警備体制を調査してたんだと思う」
「どうして……?」
「翠の進路が芸大に決まったとき、速やかに対処できるように、じゃない?」
「警護班が動くだけじゃだめなの……?」
「今は藤宮だから問題ないけど、他大学になると警護班も動きづらい。おそらく、警護班が学内に入る許可はとるつもりだろうけれど、学内の警備会社が藤宮ならそんな許可を取る必要はなくなる」
 なるほど……。
「でも、私が芸大に入ったとしても、短大なら二年だし、長くても四年のことよ……?」
「別に問題ないだろ? 藤宮警備にしてみたら、契約先がひとつ増えるだけのこと」
 そんなものだろうかと疑問に思いながら、今日あった出来事をひとつひとつ時系列順に話していく。
 先生とはすぐに合流できなくて広場で待っていたこと。そのとき、周りの雰囲気に触発された柊ちゃんが「歌いたい」と言い出したこと。気分が高揚したまま先生からの電話に応じた結果、あまりにも元気に応答しすぎて通話を切られてしまったこと。
 ツカサは白けた顔で理解しがたそうに、
「その女子、佐野の従姉なんだろ? そんなにうるさいの?」
「うるさいというよりは、ものすごく元気で賑やかな子、かな? うちの学校でいうなら飛鳥ちゃんみたいな子だけど、もっと元気でぴょんぴょん跳ねてるイメージ。あと、よく歌ってる」
「へぇ……」
 まるでそのあとには、「関わりたくない」という言葉が続きそうなニュアンスだ。
 私は気づかない振りをして別の話題を口にする。
「ピアノの先生のお話、したことあったっけ?」
「いや、とくに聞いたことはない」
「仙波先生っておっしゃるのだけど、本職はピアニストなの。それと、今日知ったのだけど、ご実家があの仙波楽器で、ご自分でもピアノの調律ができるんだって」
「……男?」
「うん。秋斗さんと同い年」
「ふーん……」
「それでね、私、全然気づかなかったのだけど、先生とは私が三歳のころにお会いしたことがあったの」
「は……?」
 ツカサの反応が正直すぎて思わず笑みが零れる。
「三歳のころ、城井アンティークの催事にベーゼンドルファーがレイアウトされたことがあって、そのピアノの演奏に来ていたのが先生と先生のお姉さんだったの。演奏が終わってから、先生とお姉さんが私と蒼兄にピアノの手ほどきをしてくれたのだけど、私、ピアノに触れたのはそのときが初めてで、それがきっかけでピアノを習い始めたから、先生がそのときのお兄さんって知ってびっくりしちゃった。先生も、私の名前を音楽教室で見たときにびっくりしたみたい。普段受験生は受け持たない契約らしいのだけど、『縁かな』って受け持つことにしてくれたらしくて」
 あと、先生に「音が好き」と言われて嬉しかった話をすると、ツカサはどこか面白くなさそうな表情になった。