「広いけど、全部の部屋を使っているわけじゃない。一番手前にパーティーホールと調理室。その隣の区画には応接室と会議室があって、次の区画にはゲストルームがある。その次が居住区画。そこから先は、父さんの書斎だったり書庫だったり。あとは母さんと姉さんの衣裳や兄さんの趣味道具を置いたトランクルームみたいなもの」
 内訳を聞いて納得できるレベルではなく、ただただ慄いているとツカサに笑われた。
「見て楽しめるものでもないけど、よかったら全部屋見せて回ろうか?」
 言いながら、ツカサは応接室からクローゼット使いされている部屋まで案内してくれた。
 手前の三分の一くらいはゲストをもてなすための施設が並び、その次に居住区画。その隣に涼先生の書斎があって、その近くの部屋はすべてが書庫。図鑑のような分厚い本がたくさん並ぶ部屋もあれば、並んでいるものがすべてファイルの部屋もあり、かと思えば文庫本や絵本が並ぶ部屋もある。そして、湊先生や楓先生、ツカサが描いた絵が飾られた部屋や家族写真が飾られた部屋もあった。その奥には膨大なドレスやバッグ、桐の箪笥が収納されたお部屋がずらりと並ぶ。
 ツカサの言うとおり、居住空間以外はクローゼット使いされたセカンドハウスだった。

「藤倉のマンションとは全然つくりが違うのね?」
「いや、九階までは普通に6LDKのつくり。このフロアだけがイレギュラー」
 なるほど……。
 車椅子を降りると有無を言わさずツカサに抱えられ、広すぎるリビングへ連れて行かれた。
「ステップフロア……?」
 一番高い位置に対面キッチンがあり、広めに作られたカウンターが食卓になっているようだ。そこから三段ほど下がった場所に二十畳ほどのリビングがあり、さらに三段下がったところに六畳ほどの書斎らしき空間があった。
 壁がないだけでこんなにも解放感に溢れた空間になるのね……。
 否、いやでも開放感を感じるほど広いのだ。
 それにしても――
「藤山のおうちとはずいぶん印象が違うのね?」
 あそこはあたたかみを感じる空間なのに対し、ここはどちらかというなら無機質で簡素。モダンな印象を受ける。
 パーティールームやゲストルームにはシックな壁紙が使われていたけれど、居住空間においてはコンクリート打ちっぱなしだし、家具やラグの配色のセンスが湊先生ぽいというか……。
「あぁ、ここは母さんの手が入ってないから」
「え?」
「ここ、姉さんが大学に入るときに建てられて、居住空間に関しては姉さんに一任されてたんだ」
 なんだかものすごく納得してしまった。
「ここ、普段は使われてないの?」
「そうだな……。ここには姉さんと栞さん、兄さんが住んだことがあるくらいで、あとは人が住んでいたことはない。ほとんど物置扱い。ほか、父さんが仕事で人を家に呼ばなくちゃ行けないときに使ったり、大学に用があるときに寄ってる程度」
「藤山にはお客様を呼ばないの?」
「セキュリティの関係で難しいのと、煩わしい仕事は家に持ち込まないのが父さんのポリシー」
「なんだか涼先生らしいね」
 そんな話をしているとインターホンが鳴った。
「インターホンは普通に鳴るのね?」
「っていうか、普通の家なんだけど……」
「え、これは普通とは言わないと思う。だって、玄関まで何メートルあるの?」
 ツカサは少し考え、
「そこの玄関なら五、六メートル。ロビーの玄関は――それでも、じーさんちのほうが玄関まで遠い」
「あそこと比べたらだめだと思う。だって、比較するものがすでに規格外……」
 そんな会話をしているともう一度インターホンが鳴った。けれども、さっきとは違う音だ。
 不思議に思って首を傾げると、
「さっきのはロビーの玄関で鳴らしたインターホン。今のは居住区画入口にあるインターホン。コンシェルジュはそこまで入ってこられる仕様。出てくるから適当に座ってて」
 そう言うとツカサはカウンターの椅子を引いてくれ、足早にリビングを出て行った。