「ごめんね、待たせちゃった……?」
「少し……」
 そう言って車を発進させたツカサの横顔は、どこか不機嫌そうだ。
「怒ってる……?」
「別に……」
 でも、間違いなく機嫌は悪いと思う。
 原因はなんだろう。
 今日一日、ツカサの好意に甘えて待たせすぎちゃった? それとも――
「今、秋斗さんたちと一緒にいたから?」
「別に、って言ったんだけど」
「だって、顔が不機嫌そう……」
 ツカサはわかりやすく顔を背けた。
 その動作に、赤信号で停車したことを知る。
 あっ――
「唯兄がね、ご飯食べておいでって。五千円もらっちゃった」
 両手で五千円札を持って見せると、ツカサは横目にこちらを見てうんざりした顔をした。
「あっ、ツカサがだめ? ……そうだよね、急じゃ真白さんもご飯作っているだろうし……」
 五千円札を引っ込めると、ツカサは小さくため息をついた。
「だめじゃない。家には連絡を入れればいい」
「本当っ?」
「……食べたいものとか行きたいところ、ある?」
「え? あ――」
 困った……。「外食」と言われて思い浮かぶところがひとつもない。
 家族で外食といったらウィステリアホテルが定番だし、蒼兄と何度か外食したことがあるけれど、すべて車で連れて行ってもらったため、場所がわからないうえにお店の名前もうろ覚えだ。
「つ、ツカサは? どこか行きたいところない?」
「このあたりの店は倉敷コーヒーしか知らない。近くにファミレスがあったけど、入りたいとは思わない」
 えぇと……。
「ごめん、私もお店詳しくなくて……」
 支倉はとくにわからない。でも、藤倉へ戻ったところで候補が増えるわけでもない。
 桃華さんと出かけたときは駅ビルに入っているパスタ屋さんへ行ったけれど、ここからなら支倉の駅ビル……? あ――
「蒼兄っ! 蒼兄に訊いたらどこか教えてもらえるかもっ!?」
「却下。……マンションでいい?」
「え?」
「支倉のマンション。藤倉のマンションと同じでコンシェルジュにオーダーできるから」
「うん!」
 支倉のおうちはどんな間取りかな。どんなインテリアだろう。
 藤山のおうちみたいに、真白さんの人柄が表れるようなほんわかしたものだろうか。
 まだ見ぬ場所へ連れて行ってもらえることが嬉しくて、私は流れる景色を新鮮な気持ちで眺めていた。ゆえに、その隣でツカサが小さくため息をついたことには気づけなかった。