正門まで来ると、
「リィっ!」
 門柱の脇で唯兄が腕をブンブンと振っていた。その隣には秋斗さんと蔵元さんもいる。
「何、あのイケメン三人衆」
「あ、手を振っているのが兄で、もうふたりは兄の上司です」
「迎えに来てくれるって兄貴? でも、なんで上司まで……?」
「あー……えぇと、どうしてでしょう?」
 私は苦笑いを貼り付け白々しい返事をする。と、唯兄より先に秋斗さんがやってきて、額に手を添えられた。
「熱、少し上がってるけど大丈夫」
 最近はこんなふうに手が伸びてくることがなかっただけに驚いていると、
「翠葉ちゃん?」
「あっ、えと、コンサートが終わってからは先生のご好意に甘えて応接室で休ませてもらったので大丈夫です」
「ならよかった。……彼らは? 先生、ではないみたいだけど?」
「こちら、倉敷慧くん。ピアノの先生に紹介されて、ここまで送ってきてもらいました。そちらの四人は倉敷くんのお友達です」
「ふーん……。送ってきてくれてありがとうね」
「いえ……」
「倉敷く――」
「けーいっ」
「あ……」
「次に苗字で呼んだらこれからずっとフルネームで呼び続けんぞ、御園生翠葉」
「ごめん……慧くん、送ってくれてありがとう。日曜日、楽しみにしてます」
「おう、待ってる。もし友達の都合つかなかったら弓弦と一緒に来いよ。その日は見に来るって言ってたから」
「うん、そうする」
「じゃあな!」
 言うと、倉敷くんたちは来た道を戻っていった。

「翠葉ちゃんにしては珍しく、会ったばかりの男の子と親しげだったね?」
 どうしてだろう……。
 文章だけを見るなら普通の問いかけなのに、なんだかものすごく問い詰められている気分だ。
「えぇと、倉敷くんとは面識があるんです」
「そうなの?」
「とはいっても、もう八年も前のことなんですけど……。ほかの四人は本当に少し前に会ったばかりで、名前の一部しか覚えてません」
 これは私が悪いのではなく、倉敷くんの紹介の仕方が悪かったと思いたい。
 春夏秋冬のインパクトが大きくて、正式名称を教えられてもすべて覚えることなどできなかった。
「秋斗様、みっともないですよ。あんな若い子たちに嫉妬するなんて」
「ホントーに。でも、普段から司っちに嫉妬してるくらいだからねぇ」
 蔵元さんと唯兄の言葉に唖然とする。
「嫉妬、ですか?」
「じゃなかったらなんなのさ」
「尋問……?」
 即答したら唯兄と蔵元さんが吹き出した。
 そこに携帯が鳴り出しはっとする。
 相手はツカサで、気づけば涼先生の車がロータリーに停まっていた。
 それに気づいた唯兄が、すぐに車椅子を押してくれる。
「リィ、夕飯くらいツカサっちと食べておいで。さすがに送迎のみってのは気の毒」
 そう言って五千円札を握らされた。
「でも、お母さんに何も言ってきてない」
「俺から言っとく。ね、食べておいでよ?」
「うん、ありがとう」