「なんでそんないいピアノ使ってんだよ!」
 容赦ない突っ込みに、「かくかくしかじか」で説明を終わらせたくなる。
 でも、そうはさせてもらえなくて、
「あの、今、知り合いのゲストルームに間借りさせていただいているのですが、そこに置いてあるピアノがスタインウェイなんです……。ピアニストの間宮静香さんをご存知ですか?」
 ふたりは当然といわんばかりに頷いた。
「生前、間宮さんが使っていらしたピアノで、鍵盤が少し重めで……」
 そこまで話すと、
「それ、今は間宮さんの息子さんが管理所有されているピアノでは……?」
「あ、そうです。ご存知なんですか?」
「そのピアノはうちが調律を担当していますから。そうでしたか、あのピアノを……。御園生さん、あのピアノを弾き続けたら身体を壊します。できることなら、御園生さんにあった調整をしたほうがいいのですが……」
 えぇと、どうしよう……。
「あくまでもお借りしているピアノなので、静さんの了承を得ないことにはちょっと……」
「ご相談はできるのですか?」
「はい。とてもよくしてくださる方なので。ただ、形見ともいえるピアノなので、手を入れることを許してもらえるかまではわからないです。無理なら、自宅のピアノを搬入してもらいます」
「僕に連絡いただければ、調律師の手配はこちらでしますので」
「ありがとうございます」
 先生の名刺をいただくと、
「んっ」
 倉敷くんに携帯を向けられた。
「ん……?」
 意味がわからずに首を傾げると、
「連絡先の交換くらいいいだろ?」
「あ、はい」
 私たちが連絡先の交換を済ませると、
「そうだ」
 先生が思いだしたように声を挙げた。
「あの日のベーゼンドルファー、今どこにあると思いますか?」
 さすがにそれはわからない。
 確かあのピアノは、おじいちゃんの古くからの知り合いにお借りしたものだと聞いているけれど……。
「ベーゼンドルファーって、うちのピアノのこと?」
 倉敷くんの言葉に、私はしまおうとしていたタンブラーを落としてしまった。
「おいおい、大丈夫かよ」
 だってだってだって――。
「慧くん、無理もないですよ。あれは彼女が初めて触れたピアノなんですから」
「え? そうなの?」
「あのピアノを一週間家具屋さんにレンタルしたのを覚えてませんか?」
「あぁ、じー様が贔屓にしてるアンティーク家具屋だかなんかだろ?」
「御園生さん、その家具屋さんのお孫さんなんです」
「はあっ!?」
「先生、知ってらしたんですかっ!?」
「えぇ」
 先生はにっこりと笑って室内の家具たちを見回した。