柊ちゃんはハイネックの白いフリースにショッキングピンクのダウンベスト、黒いタイツにグレーのツイードショートパンツという服装。足元はムートンブーツという、私と比べるとだいぶカジュアルな装いだった。
 けれど、出かけに秋斗さんにフォローし尽くされたからか、そこまで不安に思うことはない。
 冷静に周りを見回すと、カジュアルな格好をした人もいればかしこまった格好をしている人もいる。
 大丈夫……。
 ひとつ心の中で呟くと、
「翠葉ちゃんはいつもかわいいけど、今日はいつも以上にお嬢さんっぽい格好だね。髪の毛クルクルしててお人形さんみたい!」
 たぶん、秋斗さんに会わずにこの言葉をもらっていたら、いてもたってもいられないほど不安になっていただろう。でも今は、「ありがとう」と笑顔で答えられる程度には大丈夫。
 そして、ちょっと気恥ずかしくも嬉しい。
 やっぱり、お洒落をしたら「かわいい」と思われたいみたいだ。
 人の流れに沿って道を進むと、本部と思しきテントにたどり着く。
 テーブルの上には構内案内なる冊子が積まれており、「実行委員」という腕章をつけた人たちがそれを配っている。
 私たちは冊子をもらうと早々に人の流れから外れた。
「柊ちゃん、仙波先生とはここで待ち合わせだよね?」
「うん。おかしいな……時間にはうるさい先生なんだけど」
 柊ちゃんの腕にはめられたGショックを見ると、時刻はすでに一時を回っていた。
「ま、演奏会まではまだ時間あるし、ここでしばらく待ってよっか」
 柊ちゃんの提案に、私たちは創立者の銅像の真下で仙波先生を待つことにした。