秋兄は一連のやり取りに何かを察したのか、「ふーん……」と意味ありげな視線を向けてくる。
「うるさい」
「俺、まだ何も言ってないけど?」
「視線がうるさい」
「それは失礼。でも、司はもう少し女の子の褒め方を学ぶべきじゃないかな?」
「えっ!? あのっ、ちゃんと似合ってるって言ってもらいましたっ」
「なら、翠葉ちゃんはどうしてそんなに自信なさげだったの?」
「それは――……目を見て言ってもらえなかったから」
 翠は俺を気にしながら気まずそうに俯いた。
 目なんか見て言えるか――というのが正直な気持ちだが、世の中には目を見て、さらには笑みを浮かべてあれこれ言える人種がいるのだから疎ましい以外の何ものでもない。
 苛立ちを隠せずにいると、秋兄がくつくつと笑いだした。
「翠葉ちゃん、こんな従弟でごめんね。たぶん、翠葉ちゃんがかわいい格好してて直視できないんだよ。それと、ちょっと不安なのかもね?」
「え……? どうして不安……?」
「だって、これから人がたくさんいる学園祭へ行くんだ。変な輩に声かけられないかって気が気じゃないんじゃないかな?」
 いい加減黙れよ。
 苛立つままに睨みつけると、
「そんな目で見るなよ。それに、そんなに心配しなくったって大丈夫だよ。翠葉ちゃんには優秀な警護がついてるんだから」
 確かに、翠がかわせない相手に絡まれればすぐに助けが入るか……。
 それを思い出したら少しほっとした。
「今日は秋斗さんもお出かけですか?」
「うん、ちょっとね。仕事みたいな趣味みたいな、そんな感じ。出先で唯や蔵元とも合流予定なんだ」
 そう言うと、俺たちと一緒にエントランスを出てロータリーへ下りていく。
 ロータリーには俺が乗ってきた車と警護班の車が数台停まっていた。秋兄はその中の一台に乗り込む。
「珍しい……」
「何が……?」
「あの人、めったに警護班の車に乗らないから」
「そうなの……?」
「そう」
 言いながら翠を助手席へ促すと、
「ツカサは?」
「ひとりのときは利用することもある」
「ひとりのときは……?」
「翠とふたりででかけるときにまで使おうとは思わない」
 言うと、翠はほんのりと頬を染めた。