今日はふたりして赤面してばかりだ。
 恥ずかしくて仕方がないけれど、嬉しくもあるのはどうしてだろう。
 心に触れている気がするからかな……。それとも、さらけ出した心が受け入れられているからだろうか。
「まさか、こんな怪我をしてるとは思いもしないほど、よく踊れてた」
 若干のいやみを含む。けれど、褒めてもらえたことが嬉しくて、
「ツカサが教えてくれたからだよ。ほかの人にもたくさん褒めてもらえて、とっても嬉しかったの。でも、もうツカサとダンスを踊る機会はないね」
 私にはあと一度紅葉祭があるけれど、ツカサは卒業してしまっている。そう思うとなんだか残念だ。
「学校行事の後夜祭で踊ることはもうないけど、踊る機会なら毎年ある」
「え……?」
「じーさんの誕生パーティーが毎年ホテルで行われているのは知ってるだろ?」
「うん……」
「そのとき、会場の片隅で室内楽が演奏される。その曲に合わせてダンスを躍る人間も少なくはない。オーダーすれば、スローワルツだって演奏してもらえる」
「そうなのね……」
 でも、そんな場所で踊るのは気後れしてしまう。
 去年、朗元さんの誕生パーティーで痛いほどの視線を浴びた。あの視線の中で踊ると思うと足が竦んでしまう気がするし、耐え難いほどの気後れが……。
 考えれば考えるほどに踊れる気がしない。
「……別にじーさんのパーティーじゃなくてもいいし」
「え……?」
「翠が踊りたいって言うなら、コミュニティータワーの多目的ホールを押さえればいいだろ」
「……正装もしてくれる?」
「……翠が望むなら。その代わり、翠にもドレス着てもらうけど?」
「着るっ! ……あ、せっかくホールを借りて正装までするなら栞さんや湊先生たちを誘ってみんなでパーティーするのも楽しそうだよね? 桃華さんたちも招待したら、蒼兄と踊れるって喜んでくれるかな? 茜先輩や久先輩も呼びたいな」
 招待したい人の名前をつらつら挙げていくと、
「……翠の好きにすればいい。今からならクリスマスに間に合う。もっとも、日はイヴに限られるけど」
 会話をするのが苦手だと思っていたし、ツカサ相手に会話を続けられる気などまったくしなかった。
 なのに、今日は不思議と会話が続く。
「イヴなら湊先生のお誕生日や結婚記念日のお祝いも一緒にできるね。あ、でも……社会人組のことを考えたら平日よりも土日や祝日のほうがいいのかな……? だとしたら二十三日とか……?」
 会話が続くことが嬉しくて、あれもこれも、と思いつく限りを口にしていた。
 ツカサは手をつないだまま話を聞いてくれていて、一つひとつに律儀なまでの返じをくれる。
 その何もかもが嬉しくて、なおのこと口が滑らかになっていくことを感じつつ、この日私たちは、今までにないくらいたくさんのお話をして過ごした。