「どうかした?」
 優しい問いかけに、ほんの少し素直になれそうな気がする。
「……ただ、ベンチに座りたかっただけじゃないの。……ツカサの、ツカサの側に行きたかったの」
 思わず、ツカサの胸に添えていた手に力がこもる。
 素直になるのは勇気がいるし恥ずかしくもある。でも、素直になれたらなれた分、心がほわっとする。
 縛りが解けて何か許されるような、そんな感覚。
 口にする前の、緊張で身体がバラバラになりそうな感覚から、ゆるりと解放される感じ。
 その感覚を求め、
「顔、見ないでこのまま聞いてね?」
 私はツカサの胸元で深く息を吸い込み、
「ツカサに触れたいって気持ちもあるのだけど、それとは別で……――慣れようと思って。抱きしめられるのもキスするのも、テンパらない程度には慣れる努力をしようと思って――」
 きっと、ドキドキしなくなることはないと思う。だから、ドキドキすることにもう少し免疫をつけたい。
「じゃないと、いつまで経っても前には進めない気がするから」
 ずっとこのままでいたいわけじゃないよ。ツカサにだけ、ずっと我慢をさせていたいわけじゃない。
 そんな思いでツカサに抱きつくと、奪うように口付けられた。
 キスのあと、視線が間近で絡まり顔が熱を持つ。否、最初から赤面はしていたけれど、それ以上に熱を持ったというかなんというか……。
「もう……顔、見ないでってお願いしたのに……」
 恥ずかしさを隠すようにツカサの胸に頬を押し付ける。と、
「翠、こっち見ずに聞いて」
 ツカサらしからぬ要望に驚きつつも、ちょっと意地悪を言いたくなる。
「どうしようかな……今、顔見られたし」
 実際、珍しいもの見たさで見ちゃおうかな、とも思った。けれど、次の瞬間に発せられた言葉に身体の全神経が聴覚に集中する。
 ……空耳? 今、「好き」って言われた気がするのだけど……。
 顔を見て確認せずにはいられず顔を上げる。と、白い肌を赤く染め、ばつの悪い顔をしたツカサがいた。
「今、好きって……」
「言った」
 直後、ツカサは恥ずかしそうに顔を背ける。
 どうしよう……嬉しい。すごく、嬉しい……。
 嬉しいとき、胸がじんわりとあたたかくなる感覚は何度となく味わったことがあるけれど、今はブワッて、足のつま先から頭の天辺まで一気に熱が回った気がする。さらには全身の毛が総毛立ちそうな感覚まである。