この無言の間が胃に悪い。
 ようやく口を開いたかと思えば、
「なんでそんなに怯えた目で見るわけ?」
「なんとなく、怒られそうな気がして……?」
 そろりそろりと背後の気配をうかがい見ると、
「翠を怒る理由はないだろ。怒りを覚えるのは怪我をさせた人間たちに対してだ」
 そうは言われても、怒っている人を前にすると、どうしてか自分が怒られている気になってしまう。それは私だけだろうか。
 それに、先輩たちをかばうわけではないけれど、
「先輩たちはきちんと罰を受けてるよ?」
「罰を受けたからといって翠の怪我が治るわけじゃないし、怪我している間の時間をどこかで取り戻せるわけでもない。そういう意味では、罰なんて加害者を許すための過程であり、良心の呵責に苛まれた心を救うための手段でしかないと思う。もっとも、自我を優先させて他人に怪我を負わせるような人間に良心なんてあるのか甚だ疑問だけど」
 ツカサらしくも厳しすぎる考えに、私は何を言うこともできなくなった。

 気まずい雰囲気のまま外へ出ると、
「曇りって言っていたけど、多少は陽が望めそうだな」
 ツカサの言葉に空を見上げる。と、雲間から陽の光が零れていた。
「本当だ……。今日、朗元さんは庵にいらっしゃる?」
「いや、昨日連絡したら来客があるって言ってたから屋敷にいると思う」
「そうなのね。久し振りにお会いしたかったな……」
「翠から連絡すればいいのに」
 ツカサはまるでなんてことないように言うけれど、
「連絡って……私、朗元さんの連絡先なんて知らないもの」
「なんなら教えるけど?」
 え……朗元さんの連絡先ってこんなに簡単に入手できていいものなの……?
 だって、朗元さんだよ? 藤宮の会長だよ? 連絡先なんて、トップシークレット級なんじゃ……。
 それに、もし教えてもらえたとしても――。
「お忙しいところに電話するのは気が引けちゃう」
 もっと言うなら、未だ電話というアイテムは苦手意識が先に立ってしまうのだ。
「翠からの連絡なら嬉々として取りそうだし、忙しくても時間を作りそうな勢いで気に入られてると思うけど?」
「本当? 本当だったら嬉しいな……」
 ツカサは小さくため息をつき、
「近々じーさんの予定を聞いておく。紫苑祭も終わったから、放課後に少し寄るくらいのことならできるだろ?」
「うん……」
「大丈夫。翠が会いたいって言ったら絶対喜ぶから」
 その言葉とともに、ツカサの大きな手が頭に降ってきた。