意識下で鈍い痛みを感じ始めたとき、基礎体温計のアラームが鳴り出した。その直後、ラヴィの目覚まし――もとい、唯兄の声が部屋に響きだす。
 唯兄の声で起きるのはだいぶ慣れた。
 今となってはどれほどやかましく起こされても、「うん、うん……大丈夫、起きるから、うん」と適当に相手をすることだって可能だ。
 何度目かの唯兄の声に手を伸ばし、ラヴィの中に入っている目覚まし時計を止める。
「ラヴィ、おはよう。今日もかわいいね。でも、右耳にちょっと寝癖がついてるよ」
 クスクスと笑いながら寝癖を撫で付けるも、それがすぐに直ることはなかった。
 ラヴィを抱っこしたまま体温を測り、出かけるまでのシミュレーションをする。
 洗顔、着替え、朝食――……片付け、と行きたいところだけど、この足でちょこまか動くのは得策とは言いがたい。とはいえ、紫苑祭の準備にかまけていて部屋が少々雑然としてしまっている感が否めない。
「ん~…………どう考えても掃除機をかけるのは無理よね」
 座って片付けられるものを片付けたら、あとは唯兄に手伝ってもらうことにしよう。
「さ、洗顔しに行こうっ!」
 ベッドから立ち上がろうとしたとき、
「っつ――」
 あまりの痛さにのた打ち回る。
 バシバシとベッドを叩いて痛さをやり過ごし、目に滲んだ涙を拭う。
 起きたときから足の痛みは感じていたし、つい今しがた、足を怪我していることをきちんと認識していたではないか。なのにこのざま……。
「どうして右足から踏み出しちゃったかな……」
 足を見てみるも、昨日より腫れがひどくなったということはない。そんなことにほっとしつつ、二度と同じことを繰り返さないため、「右足注意」の貼紙を部屋中に貼ろう、と心に決めた。