ひんやりとした指先が頬を撫で、そろりそろりと手のひらが頬に添えられると、
「すべすべ……」
 単純すぎる感想に笑いが漏れるところだった。
「翠のほうが肌理細やかだと思うけど?」
「そうかな?」
 言いながら翠は首を傾げる。数秒すると、傾斜が追加された。
「翠」
「ん?」
「何を考えてる?」
 翠は「どうして?」という表情で俺を見る。
「頭、右に傾いてるけど?」
「あ――……あのね、少し考えていたの」
「何を?」
「くっついていたい、って気持ちが溢れるほどたくさんになったら、踏み切れるのかな、って」
「……それ、俺はくっつかずに散々焦らせばいいって話?」
「えっ!? それは困るっ。私、一週間と経たないうちにツカサ欠乏症になっちゃうものっ」
 ものすごく真剣な顔で言われたから、やっぱり少しおかしかった。
「そんな真面目にとらなくていいのに」
「だって……」
 不安そうな表情を見せる翠に少し安堵する。
 こんなことでも嬉しい。少しでも自分を求めていると示してくれるだけで、こんなにも心が温かくなる。
 改めて翠の手を握りなおし、
「翠より俺のほうが深刻」
「どうして……?」
「今はキスだけは好きにさせてもらってるからまだ抑えていられるけれど、これでキスもなく触れることもなく、だったら、気が狂って翠を襲いかねない。事実、テスト明けからキスも何もせずにきて、今日には我慢の限界超えてた」
 若干正直に喋りすぎたかもしれない。それでも、翠は身を引くような素振りを一切見せなかった。
 どちらかというと、口元を少し緩めて嬉しそうな表情だ。
 前に「学校ではいや」と言われたにも関わらず、今日は学校で何度キスしたことか……。
 でも、今日に限っては翠がいやがることはなかった。
「ツカサ、ぎゅってして?」
 表情が緩んだままの翠に懇願され、「大丈夫か、俺……」と瞬時に考える。
「……さすがに今日はそれだけじゃ留まれそうにないんだけど」
 何をどう考えてもそのまま翠を押し倒してしまいそうだ。
 それは翠だって望むところではないだろう。なのに、
「キス、たくさんはだめだけど、普通のキスなら大丈夫……」
 翠には珍しく身を引くどころか、食い下がる始末。
 それでも、キスをしたい気持ちは同じで――。
 気づいたときには翠の唇を奪うように塞いでいた。
 何度か深く口付け、
「これ以上は俺が無理」
 欲望に抗って翠を引き剥がし席を立った。
「明日の病院は俺が送迎する。コンシェルジュに車椅子を借りるからここで待ってて」
「ありがとう」
「それと日曜、学園祭を車椅子で回れるか確認とること。無理なら松葉杖を用意するから」
「ありがとう」
 ドアに手をかけたら翠が立ち上がろうとしたから、その頭を押さえるように手を添え、
「そのままでいい」
 名残惜しさにもう一度キスをすると、自分が抑えきれなくなる前に部屋を出た。
「……俺、本当にあとどのくらいもつんだろ」
 自問自答しながら外へ出ると、何気なく空を振り仰ぐ。けれどやはり、空には星などひとつも見つけることができなかった。