七時を目前に兄さんと警護班へ連絡を入れ、最後にゲストルームへ連絡を入れると、送話口から聞こえてきたのは唯さんの声だった。
『ブーブー、なんで司っちからの電話なのさ。ここはかわいいリィからの連絡があるべきところなのにっ』
「翠はまだ、打ち上げを楽しんでます」
『ふーん、あっそ。……で? 司っちがなんの用? 君からの連絡って基本いいことないよね』
「……学校から連絡があったんですか?」
『ちょっと前にね。だから、リィからの連絡待ってんだけど一向に連絡こないし』
 険のある声を受け翠の方へ視線を向けるも、さっきと変わらず楽しそうに話をしている。あれはなんというか、家に連絡するとか以前に帰りのことなど何も考えていないに違いない。
 その旨を話すと、
『じゃ、迎えに行くからそう伝えといてくれる?』
「それには及びません。すでに自分の警護班を動かしてますから、マンションまでは車で帰宅します」
『ふーん、了解。で? 怪我の程度は?』
「自分も直には見ていないので確かなことは言えませんが、湿布と鎮痛剤を飲んでいる割には腫れているように思います」
『了解』

 翠に声をかけると、
「もう帰るの? もしかして、具合悪い……?」
 ほかの人間と話していた簾条が心配そうな顔で翠を見る。
 ついさっきまで生徒会の片付けをしていた簾条は、翠の怪我の程度までは把握していないのかもしれない。さらには「大ごとにしたくない」という翠の意向を汲んで、人前で怪我の程度を尋ねることはしていなかったか……。
「ううん、そういうわけじゃないのだけど、少し熱があるの」
「疲れかしら?」
「どうかな? でも、競技に出ていたみんなは私よりも疲れてると思う」
 翠が法被を畳みだすとはっとしたふうで、
「もしかして、怪我のせい?」
「それはちょっとわからなくて……。でも、このあとマンションでツカサのお兄さんに診てもらう予定だから大丈夫」
「そう……?」
「うん。だから、途中だけど帰るね」
「わかったわ。気をつけて帰ってね」
「ありがとう」
 翠は周りにいる人間と挨拶を交わすと、風間と唐沢のもとへ向かった。
 翠に気づいたふたりはすぐに駆け寄る。
 そうして、和気藹々と話し始めた。
 何を話しているのかまでは聞こえないが、途中で自分の話題になったことはなんとなくわかる。
 話の内容を気にしつつ、五分が経過したところで声をかける。と、翠は最後にその場全体に頭を下げて打ち上げをあとにした。