しっとりとした雰囲気をもう少し味わっていたかったが、表では打ち上げへ移行すべく皆がバタバタと移動を始めている。それを気にする翠もそわそわし始めていた。
 翠と共にフロアへ出れば、生徒会からのアナウンスが入ったところだった。
「ツカサ、私たちも生徒会メンバーなのに何もお仕事してない」
 慌てる翠に、
「基本、姫と王子は免除される仕組み」
「そうなの?」
「そう」
 嘘だけど……。
 でも、怪我をしている翠を動かそうなどと誰も思ってはいないだろう。
「それに、この行事をもって俺たち三年は生徒会を引退する。次代への引継ぎも含めているから、今生徒会を取り仕切っているのは簾条だと思うけど?」
「そうなのね……」
 どこかぼーっとしている翠を教室へ送っていこうと思っているところに携帯が鳴り始めた。
 ……青木から、か。
「はい」
『あ、藤宮くん。謝罪の場が決まったわ。図書室前。人気もないしちょうどいいでしょ?』
「わかった」
 翠は緊張の眼差しで俺の顔を見ていた。
「青木が図書室前の廊下で待ってるって」
「……わかった。行ってくる」
 そう言って、翠は俺に背を向けた。
 まさか、
「ひとりで?」
「うん、ひとりで行く」
 翠は俺を見ることなく答え、フロアを突っ切るべく歩き出した。
 無事に階段へ着いた翠の後ろ姿を見ていると、携帯が鳴り出す。
 相手は朝陽。
「はい」
『司、背中に哀愁漂ってるよ』
 どこにいるのかとあたりを見渡すと、観覧席からこちらを見ている朝陽が目に付いた。
『翠葉ちゃん、これから謝罪受けに行くんだろ? 付き添わなくて良かったの?』
「ひとりで行くって」
『そういうとこ、彼女らしいね。でもあれは、結構足が痛いんじゃないかな?』
 視線を翠へ戻すと、階段を上がる様はとてもゆっくりで、ドレスだから、というよりは、身体のどこかを庇って歩いているように見えなくもない。
「このあとは歩かせるつもりはない」
『うん、そうしてあげな。こっちのことは任せてくれていいから、見えない場所で待機しててあげたら?』
「ああ……」