試合を終えて観覧席へ戻る途中、海斗の声が聞こえてそちらを見ると、
 海斗と翠、佐野が並んで座っていた。しかし、翠はどうしたことかこちらに背を向け海斗のほうを向いている。さらには、
「どうしてツカサがいるのっ!?」
 いたら悪いのか……。
「だって、黒組決勝まで勝ち残ってたし、決勝戦が終われば戻ってきてもおかしくないでしょーが」
「終わったら集計作業で本部じゃないのっ!?」
「翠葉さん……さすがに半裸のまま本部で仕事ってわけにはいかないでしょう……。それに、今は飛翔が本部にいるから問題ないんじゃない?」
「じゃぁっ、どうしてメガネかけてないのっ!?」
「お嬢さん、棒倒しでメガネなんてかけてたら外れたとき危険でしょーが……」
 つまり、俺もその他大勢の男子と同じで直視できない、ということなのだろう。
「その他大勢」と同じ扱いなのが面白くない。少しいじめに行こうか。
 そんなことを考えつつ赤組の観覧席へ足を向けると、翠が勢いよく立ち上がった。
 あのバカっ――。
「翠葉っ!?」
「御園生っ!?」
 翠は海斗たちが止めるのも聞かずに最寄の階段を駆け上がる。その背を追って一段目に足をかけたとき、翠の動きが止まった。
 そのあとはスローモーションのように翠が降ってきて、まるで最初から決まっていたように俺の胸へ着地する。
 肝が冷えるとはこういうことをいうのだろう。
 いい加減、不注意でこれ、というのはやめてほしい。もっとも、今回に関しては不注意ではなく確信犯で逃げた気がしなくもないけれど……。
 どちらにせよ、直視できないからって逃げるまでしなくてもいいと思う。
「あっぶねー……司、ナイスキャッチ!」
 辺りがざわざわと騒ぐ中、
「何度言ったら習得する? いい加減立ち上がりざまの眩暈くらいは回避できるようになってしかるべきだと思うんだけど」
 翠と出逢ってから、俺の寿命は縮まる一方だ。
 さらには、俺に落ち度はないのに、腕の中にいる翠が両手で顔を押さえてうずくまっているのを見ると、俺が悪い気がしてくるからいただけない。
「翠?」
「ごめん、なさい……」
 髪の合間から見えた頬や耳があまりにも赤くて、思わず自分まで赤面するところだった。
 そんな自分をひた隠し、
「……バカ、顔赤すぎ。そんな顔、ほかの男に見せるな。……視界は?」
「……もう、大丈夫」
「なら、ゆっくり立って」
 立て膝になって翠が動くのを待っていたが、翠は一向に立ち上がらない。
 ま、人の注目を集めている中これだけ赤面してたら顔を上げるのは無理か……。
「海斗、ジャージ」
「うぃーっす」
 投げられたジャージを左手で受け取り翠の頭にかけてやると、翠は俺からも見えないように顔を隠して立ち上がった。
 少しいじめてやるつもりだったがこれ以上追い討ちをかけるのは人としてどうなのか……。
 考えた末、俺は何も言わずに海斗たちに翠を預けて自分の応援席へと戻ることにした。