「翠葉ちゃん、これ、かなり痛いだろ?」
「えぇと……怪我した直後にロキソニンを飲んだんです。だから、そこまでひどい痛みではなかったんですけど、さすがに時間切れでしょうか……。少し前からズキズキしてます。でも、耐えられるか耐えられないかと訊かれたら耐えられないほどではな――」
 急に昇さんの手が眼前に迫ってきて、コンッと額にデコピンを食らった。
「翠葉ちゃんの痛み対する耐性はわかっちゃいるが、こういうのは我慢していいことなんてひとつもない。ちゃんと処置しないと長引くし熱が出ることだって――」
 言われている途中で視線を逸らす。と、ツカサがひとつため息をついた。
「翠、自己申告を勧めるけど?」
「はい……」
 おずおずと携帯を差し出すと、ディスプレイを見た昇さんは、
「なんだ、もう発熱してんのか。しかも、ロキソニンを飲んだのが何時だって?」
「ワルツ競技の十五分前だったので、五時前です」
「で、今が七時四十分、と。翠葉ちゃんは効き始めるのも早いけど半減期も早いからな……こんなもんか」
「ごめんなさい……」
「いやいや、謝られてもな……。ところで、ワルツ競技の前って、翠葉ちゃんワルツの代表って言ってなかったか?」
「言ってました……」
 またしても正視できなくなり顔を背ける。
「ははぁ……できる限りの処置をして出た口だな?」
「ごめんなさいぃぃぃ……」
 クッションを抱きしめごめんなさいの姿勢。すると、
「そういうやつはこおだっ!」
 思いっきり髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。
「ま、がんばってるって話は聞いてたしな」
 そんな話をしているところに楓先生が水を張った洗面器とバスタオルを持って戻ってきた。