七時を過ぎるとツカサがやってきて、
「翠、そろそろ……」
「はい」
 私たちのやり取りに気づいた桃華さんが、
「もう帰るの? もしかして、具合悪い……?」
「ううん、そういうわけじゃないのだけど、少し熱があるの」
「疲れかしら?」
「どうかな? でも、競技に出ていたみんなは私よりも疲れてると思う」
「……もしかして、怪我のせい?」
「それはちょっとわからなくて……。でも、このあとマンションでツカサのお兄さんに診てもらう予定だから大丈夫」
「そう……?」
「うん。だから、途中だけど帰るね」
「わかったわ。気をつけて帰ってね」
「ありがとう」
 近くにいる人たちと挨拶を交わし、最後に風間先輩と静音先輩のもとへ向かう。
「色々考えてワルツに誘っていただけたこと、本当に嬉しかったです。ありがとうございました」
「私たちも楽しかったわ。御園生さんをワルツに誘って大正解だった。でも、その足で踊っただなんて……」
 静音先輩が麗しい眉をひそめる。
「痛いは痛いんですけど、谷崎さんがテーピングしてくれたので助かりました」
「「え? 谷崎さん?」」
「はい。ワルツ競技の前に謝罪に来てくれました。なので、和解済みです。その節はお世話になりました」
 重ねて頭を下げると、
「やだ、やめてっ? もともと御園生さんは悪くないのだから」
 上体を起こすと、風間先輩が携帯を操作していた。
「番号とアドレス、交換しよう?」
「え?」
「あ~……別に他意はないよ? でも、俺大学でも藤宮と一緒になる予定だし、何かと藤宮ガイドラインが必要になると思うんだよね。だからホットライン的な連絡先交換だと思って……だめ?」
「ガイドライン」という言葉がツボに入った。
「そんな頼りになるとは思えませんが、それでよろしければ……」
 そんなふうに返すと、「私も便乗させて?」と静音先輩も携帯を取り出した。
 そこへ谷崎さんが走ってきて、
「あのっ、私もっ、私も交換してもらえませんかっ!?」
 必死に懇願をされた。
「谷崎さん、必死すぎ」
 風間先輩の突っ込みに谷崎さんは顔を赤らめつつ、「だめですか?」と尋ねてくる。
「いいえ、喜んで」
 また、新しい人たちとつながりを得ることができた。