桜林館では打ち上げが始まっていて、あらかじめ用意されていた飲み物やお菓子が満遍なく行き渡っていた。
 飲み物は主に買ってきたものだけど、お菓子においては市販されているものに混ざって手作りのものもちらほらとある。
 すごいな……。
 紫苑祭前だからと言って授業のペースが落ちることはないし、宿題の量が減るでも小テストがなくなるでもない。そのうえ紫苑祭の練習がびっちりはいっていたのに、みんないつ作ったんだろう……?
 私に気づいた桃華さんがやってきて、ツカサから離れ桃華さんの腕を借りて移動する。と、風間先輩が駆け寄ってきた。
「御園生さん、怪我したんだって?」
「はい、ちょっと落っこちてしまって……」
「その怪我でワルツ踊ったとか、聞いて驚いたよ」
「そうですよね……」
 苦笑を返しつつ、嘘はついていません、と心の中で自分を擁護する。
「俺と飛翔、パートリーダーたちの挨拶は終わったから、残るは御園生さんの番なんだけど、すぐに振っても大丈夫?」
「だめです」
 即答すると、
「じゃ、少し時間あげるからサクッと考えてね。短くてかまわないから」
 にこりと笑った風間先輩は、間をおかずに声を張り上げた。
「はいっ、注目っっっ! もうひとりの副団長こと姫の挨拶! はい、拍手~っ!」
 か、風間先輩っ!? 少し時間くれるって――十秒ありましたか……?
 恨めしい視線を風間先輩に向けると、先輩はイヒヒと笑って見せた。
 もう……いたずらっ子め。
 集まる視線に数回の深呼吸をして挑む。
 けれど、人前で話すことに慣れていない私は即座に挫け、身体の向きを変える。と、クスクスと背後から笑い声が聞こえてきた。
 そろりそろりと振り向くと、みんながおかしそうに笑っていて、「がんばれ!」とか「ふぁいとっ!」「最後なんだからしっかり!」なんて声をかけてくれる。
 今度こそ、ときちんと向き直り、
「お疲れ様です。……知っている人が多いかと思いますが、私は運動ができません。なので、体育祭というものはずっと眺めているだけのイベントでした。でも、今回副団長という役職をいただいたことで、『赤組なんだ』という気持ちをより強く感じることができたし、参加している実感をきちんと得ることができました。……何分初めてのことだったので、要領もつかめなければ力不足と思われても仕方のない有様でしたが、最後まで副団長を務めさせてもらえたこと、とてもいい経験になりました。また、ワルツ競技の際にも過分なご配慮をいただきありがとうございました。皆さんと過ごした時間をこの先も忘れません。ありがとうございました」