「えぇと……ワルツ競技の前、ウォーミングアップをしていたのだけど、観覧席に戻る途中で階段から落ちちゃったの」
 これであってるかな、と自分に確認しながら口にすると、集まっていた人が「えええっ!?」と大きな声を挙げた。
「それでワルツに出たのっ!?」
「うん……。でも、その前にできる限りの処置はしたから……だから、大丈夫、だよ?」
「大丈夫ったって、これ、ずいぶん腫れてるじゃない」
 足元に座りこんだ香月さんに指摘され、「そうかな」と曖昧に笑ってみせる。
「翠葉ちゃんって意外とおっちょこちょいなのよねぇ……。傷、残ったりしない? 大丈夫?」
 美乃里さんの言葉に、
「主には打ち身だから大丈夫だと思う」
 それでみんなは納得してくれた。
「どっちにしても、この足でフロアに座るのはつらいよね。私、先に行ってパイプ椅子出しておく」
 そう言うと、美乃里さんは一足先に教室を出て行った。
 話がひと段落したところで香月さんが声をかけ、クラスの女子全員で教室を出た。
 廊下にツカサを認めると、
「荷物は私が持っていくわ」
 香月さんがかばんのほかにドレスが入ったものまで奪う勢いで引き受けてくれた。
 でも、できれば荷物を持って先に行くのではなく、荷物を持たなくてもいいから一緒に桜林館まで歩いてほしかった。
 そんなことを思いつつ、恐る恐るツカサの方を振り返る。と、
「……聞いてないんだけど」
「え、何、が……?」
 ツカサは恐ろしいまでに美しい笑みを浮かべていた。
「足の怪我、そんなにひどいものだったとは聞いてないんだけど? しかも、右手首も怪我してたなんて初耳だけど?」
 声音は怒気を孕んでいるし、ツカサにしては珍しく、笑顔を貼り付けつつもこめかみの辺りが引きつっているように見える。
 そんな観察をしていると、
「停学措置ですら軽いだろっ!?」
 すごい大声で怒鳴られた。