先輩はドレスではなく制服姿だった。
「先輩は踊られないんですか?」
「こういうのは性分じゃないのよね。まだ紅葉祭の仮装パーティーのほうが楽しめるわ」
 若干嫌そうに話していたけれど、すぐに顔つきが変わり話題が変わることを察する。
「さっきの話、先生方に伝えてきた」
 そこまでする必要があったのかなかったのか、私には判断しかねるけれど、もしかしたら風紀委員にはそういった通達の義務のようなものもあるのかもしれない。
 でも、先生に知れたらどういう事態になるのか――。
 少し考えれば想像ができてしまってその先を聞くのが怖い。
「姫のことだから、ペナルティを与えた時点でもういいと思ってるかもしれない。でも、学校的にはそうはいかないの。姫が怪我を負った時点で停学処分が確定」
 その言葉に、「やっぱり」と思う。
 それなら、私がペナルティを提示する必要などなかったように思えるし、こんなにも楽しそうな後夜祭を見ることなく帰宅したほうが良かったのではないか。
 言いようのない罪悪感を覚え心が沈む。それに伴い、視線は手元に落ちていた。
「ほら、そこで俯かない。話は終わってないわよ」
 言われて顔を上げると、
「学校が提示した停学期間は一週間だったんだけど、姫が提示したペナルティをすでに受けていることを汲んで、期間短縮もしくは謹慎にできないかって打診してきた」
 期間短縮はわかるにしても、謹慎と停学とは何がどう違うのか……。
 そう思っていると、ツカサが補足してくれた。
「停学は学校の記録に残るものだし教育委員会へ報告することになる。それに対し、謹慎の場合は記録に残らないし教育委員会へ報告する必要もない」
 その言葉にほっと胸を撫で下ろす。けれど、その先には「ただし」という言葉が続いた。
「謹慎を食らった時点で指定校推薦枠は使えなくなる」
 心臓が止まりそうな衝撃に、思わず両手で口元を覆う。
 そんな、進路にまで関わるなんて――。
「姫、当然のことよ。人に暴力を振るうってそれなりの罰を受けるものだわ。それも、双方が暴力に訴えているのならともかく、姫は一方的に暴力を振るわれたの。さらには複数人対姫ひとりということもあって、カテゴリの中でも『いじめ』に分類される。したがって謹慎期間は長いわ。学校謹慎最長の十五日。そして、今日中に姫へ謝罪し許してもらうことが条件になってる」
 つまり、面と向かって対峙せよ、ということ……?