この曲はなんという曲なのだろう。
 ピアノの伴奏に女性シンガーの歌がのっている。
 歌詞から恋愛を歌ったものであることはわかるけれど、すべてを聞き取れるわけではないし、今はこの音楽に身を任せダンスを楽しみたい。
 去年は気後れしてしまった後夜祭のダンスタイムも、今年は臆することなく楽しめている。「すべてを諦める必要はない」と言った湊先生の言葉は正しかったのだ。
「翠……?」
「ん?」
「何を考えてる?」
「……楽しいな、って。それだけ」
「そう。ならいい」
 ツカサの柔らかい笑みを見て自分も微笑み返す。
 曲が間奏に入ると女の子をエスコートした男子たちがフロアへ出てきて、恭しく礼をすると手と手を取り合い踊り始めた。
 ゆったりとしたテンポに身を任せ、みんなでクルクルとワルツを踊る。
 そうして、あっという間に短いワルツは曲は終焉を迎えた。
 誰からともなく拍手が起こり、みんなが拍手で互いを褒め称える。そして、馴染みあるカントリーダンスの曲が流れ始め、フロアにいくつかのサークルができた。
 雰囲気がガラッと変わって和気藹々とした空気になる。
 私とツカサは中央から離れ、比較的空いている半月ステージへ移動した。
 ステージにたどり着くと、ひょい、とツカサに抱き上げられステージに座らされる。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
 ツカサはステージに掛けることなく背中を預けて立っていた。
 なんとなく視線を向けると、ツカサの頭につむじを見つける。
 考えてみたら、こんなアングルでツカサを見たことはないのではないだろうか。
「新鮮、かも……」
「何が?」
 ツカサが振り返り、見上げてくる様に更なる新鮮さを感じる。
「普段、ツカサのことを見下ろすことなんてないでしょう? だから、新鮮」
「そんなこともないだろ? 翠がお茶を淹れて部屋へ戻ってくると、翠が立ってて俺が座ってるって状況だと思うけど?」
「そう言われてみれば……。でも、そういうときはたいていトレイを持っているから、『お茶を零さないように』のほうに神経が使われている気がする」
 そんな話をしていると、沙耶先輩がやってきた。