会場からは女の子の叫び声や、「おお」という男子の野太い声、囃し立てるような口笛が聞こえてくる。
 いつもの私なら、このたくさんの視線に竦みあがってしまうところだけれど、今日は観覧席のどこかでこの光景を見ている人たちの視線を意識し、階段を踏み違えないびっこを引かない、格好悪い様だけは絶対見せない、とそこばかりに神経を使う羽目になっていた。
「翠、正面観覧席」
 言われてそちらに視線を移す。と、そこには制服を着た女子が三人。
 見るからに、後夜祭不参加組。つまり――。
「悪い、うちのクラスの女子だった」
 その言葉に、
「そうだったのね……。じゃ、仕方ないかも……」
 自然とそんな返答をしていた。
「どういうこと?」
 隣を歩くツカサを見ると、心底不思議な顔をしている。
「だって、ツカサと同じクラスなのよ?」
 ヒントを与えたつもりだったけれど、ツカサは意味がわからない、といった表情だ。
「同じ学年で同じクラスなら、紫苑祭のワルツ競技でツカサとペアになれる可能性があるでしょう?」
 ツカサは要領を得ない表情のまま私を見ている。
「ツカサは中等部の紫苑祭でもワルツ競技に出ていたのでしょう? そして、高校一年でもワルツ競技の代表だった。だとしたら、三年次もワルツに出ると思う人が大半なんじゃないかな? その中には、ツカサとワルツを踊りたいがために勉強をがんばってA組入りした人だっているかもしれない。なのに、いざ蓋を開けたらツカサはワルツのメンバーじゃないし、後夜祭では私と踊るし、がんばったことが何ひとつ報われない。ご褒美が何もなくなっちゃって、ちょっとやさぐれちゃったのかも?」
「だからといって、人に怪我を負わせていいことにはならない。そのあたりの良し悪しは判断できて当然の年齢だと思うけど?」
「それは認める」
 でも、「出来心」は誰の心にも起こりうるものだと思うし、そう思えば、そこまでドロドロとした感情は生まれない。
 それほどまでにツカサのことが好きなんだな、と思うくらい。
 ツカサとお付き合いしていることやツカサの好意を得ていることに優位性を感じたことなどないけれど、彼女たちにはそう見えるのかもしれないし、事実、私は有利な場所にいるのだろう。
 だとしたら、こんなふうにツカサに説明することだって彼女たちに良くは思われないはず。
 そんなことを考えていると、
「翠、あと三段で階段が終わる」
 すなわち、意識を身体に戻せ、という何か。
 私たちがフロアへ下りると人垣がさっと両脇に分かれ、フロア中央まで続く道になった。
 そこをゆっくりと通り抜け、開けた場所に出るとツカサと向き合い一礼する。それが合図となり、会場にゆったりとしたワルツが流れ出した。