サザナミくんと朝陽先輩、飛竜くんが待機していて、
「姫と王子はここでしばしお待ちください」
 飛竜くんはかしこまった言葉で椅子を勧めてくれた。
 後夜祭のことはノータッチだったこともあり、こんな仰仰しく入場することやどこから入場するなどの情報は一切持っていなかった。
 でも、少し考えれば多少の予測はできたかもしれない。
 このイベント好きの学校が、姫と王子を絡めたイベントをまったく飾り立てないわけがない。そう思えばこの先にもまだ何か知らないことが待ち受けているかもしれないと思うわけで、何が起きても動じない心を持ちたい、と自分に渇を入れるために姿勢を正す。と、夜風に触れた肌が寒さを訴えた。
 わずかに震えただけなのに、すかさずツカサがジャケットを脱ぎ肩にかけてくれる。
「ありがとう。ツカサは寒くない?」
「翠みたいに肌を露出する格好じゃない」
 確かに。
 ジャケットの中には長袖シャツにジレを着ているのだから私よりは寒くないだろう。
 私の格好はといえば、オフショルダーに近い薄紫色のフルレングスのドレスにロンググローブを合わせたスタイルなので、どう考えても十月末日の夕方に外へ出る格好とは言いがたい。
 ロンググローブのおかげで露出は控えめになっているけれど、やっぱり肩や二の腕が出ているデザインは寒いらしい。
 でも、静さんからいただいたドレスはどれも首周りがすっきりとしたデザインで、チューブトップやオフショルダーといったものに偏っている節がある。
 そんなことを考えていると、朝陽先輩に声をかけられた。
「ちょうどいい頃合。おふたりさん、準備はいい?」
 ツカサがジャケットを着用したところでOKを出すと、サザナミくんが手にマイクを持つ。
「Ladies and gentlemen! ただいまより後夜祭を開催いたします。こちら中央階段より姫と王子のご入場です! 拍手でお迎えください」
 椅子からゆっくりと立ち上がり、ツカサの手に引かれるままに桜林館へ入る。と、当たり前のことだけど、大多数の生徒が正装して一階フロアに集まっていた。
 まるでちょっとしたパーティーのような光景。
 こんな光景を校内で見られるだなんて、さすがは藤宮……。
 ただ、今の私には障害物にしか映らない階段が数メートル先に待ち受けているわけで、ふわふわした気持ちのままではいられない。
 階段の傾斜はそこまで急ではないし、ゆっくり下りれば大丈夫。
 自分に暗示をかけていると、ツカサがエスコートする手を持ち替え、今まで私の手を受けていた左手を私の左腰へと回した。
「体重かけてかまわないから」
「ありがとう……」