「だって、黒組の女子の犯行だもの。春日くんも藤宮くんも知らなかったでしょ?」
「青木、三人の名前を」
 沙耶先輩はため息をつきながら、ポケットからメモ用紙を取り出した。
 そのメモを見ながらツカサは眉をひそめる。
「一番上に書いてある芳川彩加が実行犯。三人とも藤宮くんのファンよ。もっとも、ファンというか本気というか……そのあたり難しいけど」
「難しいって何が……?」
「つまり、藤宮くんとワルツで踊りたかった子たちの犯行。ここのところ、姫にちょっかい出す人間いなかったから、今回のことを未然に防げなかったのは風紀委員の怠慢でもある。姫、悪かったわね」
「そんなっ――」
 沙耶先輩の謝罪に反応しつつ、顔から一切の表情をなくし、さらには何も口にしないツカサから目が離せなかった。
 ツカサは無言で身体の向きを変え、委員長たちが集う方へ歩き出す。
「ツカサっ!? 待ってっっっ」
 振り返ったツカサはものすごく険しい表情をしていた。
「黒組の優勝を取り消す」
「だめっ。それ、全然意味ないから」
 きっぱりと言うと、ツカサが戻ってきた。
「意味がないって?」
「だって、私を突き落としても、ワルツに支障はなかったよ? うちはワルツで一位をとった」
「それ、結果論じゃない? 事実、翠は怪我をしたわけで、何もペナルティを受けないのは筋が通らない」
「だからっ、どうしてそれを黒組が負わなくちゃいけないのっ!? 私が突き落とされたことを知っている人が黒組に何人いるのっ? 私を突き落とした人が黒組の人だとしても、黒組を背負って突き落としたわけじゃないでしょう? 個人的な恨みが根源でしょう? それ、黒組も赤組も関係ないでしょう?」
「でも――」
「大丈夫。ちゃんとペナルティは負ってもらうから」
 そこまで言うと、沙耶先輩が口端を上げた。
「さ、姫さんどうする?」
「……実行犯を含め、その三人は後夜祭の参加禁止。でも、後夜祭が終わるまでは下校するのも禁止で」
 私の言葉に沙耶先輩と飛翔くんが声を挙げて笑い、優太先輩はきょとんとした顔をしている。ツカサにおいては、「それ、ペナルティになるの?」と訝しがる始末だ。
「ツカサのファンなら私とツカサが踊るのは見たくないはず。もしかしたら、私を突き落としたのはそれが目的だったかもしれないでしょう? それなら、踊ってみせましょう?」
 にこりと笑って見せると飛翔くんがくつくつと笑いながら、
「負けず嫌いなうえ、性格もそこそこいいんだな?」
 もちろん、この「いい」というのは「悪い」の意味だろう。
 私は笑顔のまま、「お褒めに与り光栄です」と請合った。