「あぁ、去年は姫がふたりいたし、翠葉ちゃんは運動だめだと思ってたから茜先輩と司が踊る予定だったんだよね。でも、翠葉ちゃんも来なければ司も来ないしで、茜先輩のご指名を受けて会長がファーストワルツを踊ったんだ」
 そんなこと知らない……。
 紅葉祭のDVDは何度も見たけれど、後夜祭のシーンで茜先輩と久先輩が切り取られて踊っていることに疑問などまったく抱かなかった。
「ツカサっ、どうして教えてくれなかったのっ!?」
「知ってると思ってたから?」
 しれっと答えられてぐうの音も出ない。 
 確かに、人から聞かずとも、自身で流れすべてを把握していればこういう事態にはならなかったわけで……。
「すみません……知らなかった私が悪いです」
 そんな会話をしていると、沙耶先輩が飛翔くんとやってきた。
 ふたりは同じ赤組ではあるものの、接点があるわけではない。そんなふたりが並んでいることに嫌な予感がした。
 沙耶先輩が何を言う前に場所を移そうと思ったけれど、
「姫を突き落とした犯人並びに、妨害工作をした組が判明したけど、ここで留めておく? それとも、体育委員と紫苑祭実行委員に情報を上げてペナルティを発令する?」
 端的だけど、的を射た話は言葉少なに何が起こったのかを語っていた。
 たぶん、風紀委員の誰かが私についていて犯人を見ていた。もしくは、飛翔くんが沙耶先輩に何が起こったのかを話して、桜林館についている監視カメラから犯人を割り出した。そんなところだろう。
「青木、それ、なんの話?」
「姫、話すわよ?」
 確認のようで、まるで確認の意味をなさない質問。
 沙耶先輩は私の返事を待つことなく、ワルツの前に起きたことをツカサと優太先輩に話した。
 ツカサが動き、次の動作を察する。
「だめっ」
 ツカサは負傷した足を見るためにドレスの裾をめくろうとしたのだ。
「応急処置はしてある。今は誰にも見せたくないし悟られたくもないっ」
 その言葉にツカサは動作を改め、私を椅子に座らせた。
「で、犯人は?」
 優太先輩が尋ねると、
「実行犯はひとりだけど、話を聞いたところによると三人で企てたことみたいね。組自体はまったく感知してないでしょうよ」
 沙耶先輩の意味深な視線に、「え?」と思う。