ダンスを終えても私の緊張は完全には緩んでいなかった。
ワルツは終わった。嬉しいことに一位をとることができた。でも、私を突き落とした人は今この状況をどんな目で見ているだろう。
階段から落ちて私が振り返ったときには突き落とした人はもういなかった。それは、私が落ちるのを見届けてからいなくなったのか、それとも押すだけ押してすぐに逃げたのか――。
どちらにせよ、この状況は喜ばしいものではないだろう。ギリギリと奥歯を噛み締めているかもしれない。
そう思えば、まだ右足を庇って歩くことはできなかったし、無様な姿など見せてやるものか、と思う。
そんな自分を少し笑う。
本当、救いようのない負けず嫌いだ。でも、これが私だし、もし谷崎さんのように「吹けば飛ぶ」とでも思っていたのならご愁傷様。
私、痛みに対しては耐性があるんだから――。
本部ではすべての確認が終わったのか、パソコンに表示されていたものをプリントアウトする工程に入っていた。それにざっと目を通したツカサは、各委員会の長たちにプリントを配る。
私に気づいた優太先輩が、
「翠葉ちゃん、お疲れ! ダンス、超きれいだった!」
「ありがとうございます」
「あんなに踊れるなら後夜祭のファーストワルツも大丈夫そうだね」
「……はい?」
後夜祭でワルツを踊るのは楽しみにしていたけれど、「ファーストワルツ」という響きは今初めて聞いた。
「後夜祭のファーストワルツって、なんの話でしょう?」
嫌な予感しかしないだけに、何を思うでもなく苦笑を浮かべる。と、
「あれ? 翠葉ちゃん知らないの?」
だから、何を……。
私の視線に何かを悟ったらしい優太先輩は、一歩後ずさってから、
「後夜祭は、フロア中央で姫と王子がファーストワルツを踊るとこから始まるんだ。で、曲の途中からその他大勢が加わって踊りだす。一曲目のワルツが終わるとカントリーダンスに移行して、二曲踊ったらもう一度ワルツ。そして最後にチークダンスなんだけど……知らなかった?」
「そんなの知りませんっ! だって去年は――」
思い出してはたと我に返る。
去年の後夜祭は始めから参加していなかった。私たちが校庭に着いたときにはすでにチークダンス前のワルツが始まっていたのだ。
ワルツは終わった。嬉しいことに一位をとることができた。でも、私を突き落とした人は今この状況をどんな目で見ているだろう。
階段から落ちて私が振り返ったときには突き落とした人はもういなかった。それは、私が落ちるのを見届けてからいなくなったのか、それとも押すだけ押してすぐに逃げたのか――。
どちらにせよ、この状況は喜ばしいものではないだろう。ギリギリと奥歯を噛み締めているかもしれない。
そう思えば、まだ右足を庇って歩くことはできなかったし、無様な姿など見せてやるものか、と思う。
そんな自分を少し笑う。
本当、救いようのない負けず嫌いだ。でも、これが私だし、もし谷崎さんのように「吹けば飛ぶ」とでも思っていたのならご愁傷様。
私、痛みに対しては耐性があるんだから――。
本部ではすべての確認が終わったのか、パソコンに表示されていたものをプリントアウトする工程に入っていた。それにざっと目を通したツカサは、各委員会の長たちにプリントを配る。
私に気づいた優太先輩が、
「翠葉ちゃん、お疲れ! ダンス、超きれいだった!」
「ありがとうございます」
「あんなに踊れるなら後夜祭のファーストワルツも大丈夫そうだね」
「……はい?」
後夜祭でワルツを踊るのは楽しみにしていたけれど、「ファーストワルツ」という響きは今初めて聞いた。
「後夜祭のファーストワルツって、なんの話でしょう?」
嫌な予感しかしないだけに、何を思うでもなく苦笑を浮かべる。と、
「あれ? 翠葉ちゃん知らないの?」
だから、何を……。
私の視線に何かを悟ったらしい優太先輩は、一歩後ずさってから、
「後夜祭は、フロア中央で姫と王子がファーストワルツを踊るとこから始まるんだ。で、曲の途中からその他大勢が加わって踊りだす。一曲目のワルツが終わるとカントリーダンスに移行して、二曲踊ったらもう一度ワルツ。そして最後にチークダンスなんだけど……知らなかった?」
「そんなの知りませんっ! だって去年は――」
思い出してはたと我に返る。
去年の後夜祭は始めから参加していなかった。私たちが校庭に着いたときにはすでにチークダンス前のワルツが始まっていたのだ。