息を切らした佐野くんは、谷崎さんの顔を見てから私のもとへやってきて、
「何があったの?」
 ピリッとした空気を漂わせる声音だった。
「あのね、全部話したいのだけど時間がないの。だから、必要なことを優先してもいいかな?」
「……わかった」
「でも、谷崎さんは何も悪くないから」
 それだけは伝えておきたくて口にする。そしてすぐ、かばんから湿布を取り出した。
 効く効かないは問わず、身体に痛みが出ると「何か処置をした」という形跡が精神安定剤になることもあり、湿布はいつでもかばんに入れてあった。それがこんな形で役立つとは……。
「湿布ってっ!?」
「ざっくりと話すと階段から落ちました」
「それ、さっき藤宮先輩が受け止めてくれたやつと別件?」
「申し訳ないくらいに別件です。右足に痛みがあるから湿布を貼ろうと思って。テーピングは固定などお願いできたら嬉しいな、と……」
 ジャージを膝までたくし上げると、膝下から足首少し手前まで大幅に内出血していた。
 そういえば、落ちているとき、脛が階段に当たっていた気がしなくもない。たぶん、正座を崩したような状態で落ちたのだ。
 それにしてもまあまあまあ……。谷崎さんは手で口を押さえて絶句しているし、佐野くんも目を瞠っている。
「グロテスクでごめんね」
 言いながら、腫れだしている脛に湿布を貼ってグロテスク加減を軽減させた。そこへ飛翔くんが戻ってきて、「はい」と手渡されたペットボトルを手に、蓋を開けようとして「おや?」と思う。
 さして痛くないと思っていた右手にキャップを捻る動作を拒否されたのだ。