「現況を話すと、手や上半身は大丈夫みたい。でも、右足はまんまと負傷してしまいました。今からできる限りの処置対応を試みてはみるけれど、ワルツの時間までにどうにもならなかったら、谷崎さん……代わりをお願いできますか?」
 谷崎さんは難色を示した。
 私がワルツの代表になるのには不満だったけれど、こんな形で代打になるのは抵抗がある。そんな感じ。
 その気持ちはわからなくはない。でも――。
「私、ものすっごくがんばってきたの。だから、できることなら自分が踊りたい。でも、ワルツメンバーみんな一位をとりたくて練習してきたから、こんなことでメンバーに迷惑をかけるのは嫌。だから、そのときはお願いします」
 一度言葉を区切り、
「昨日、っていう土壇場で反旗を翻したのだから、このくらいは呑んでもらえるでしょう? さっきの謝罪を受ける代わりに、この条件は呑んでもらえない?」
 ちょっと意地悪っぽい言い方をしてみたら、気の強い谷崎さんらしく口を真一文字に引き結び、コクリと慎重に頷いた。
「それから飛翔くん、今から急いでスポーツドリンクを買ってきてほしいです」
 ミニバッグに入れていた小銭入れを手渡すと、
「スポーツ飲料飲めないんじゃねーの?」
「それは好みの問題。今は嫌いでも飲むよ。スポーツドリンクのほうが身体が吸収しやすいからね、薬の効きもいいはず。でも、できれば一緒にミネラルウォーターも買ってきてもらえると嬉しいです」
 私の返事を聞くと、飛翔くんはすぐにステージ裏から出て行った。それと引き換えに佐野くんが飛び込んでくる。