鉄の扉をそっと開けてフロアへ出ると、すぐ近くにある階段を上り観覧席の一番上の通路へ出た。
 一番上の通路だから、見えるのは人の背中とフロアで演技している人たちのみ。
 十人で踊る創作ダンスとはどんなものかと思ったけれど、先のヒップホップダンスとは違い、全員が同じ動きをすることはほとんどない。
 全身を使って踊ることは変わらないものの、複数人でひとつのものを表現するようなダンスだった。
 確か、創作ダンスはテーマのみが決められていて、曲は五分以内のものならなんでもいいというルールだったはず。
 今年のテーマは「超新星爆発」。星が長年燃え続けた末に、大爆発を起こす現象だ。
 テーマを聞いたときにはどんなダンスになるのかと想像もできなかったけれど、実際の演技を見てもすべてを理解することはできそうにない。
 たぶんこの組は星が生まれるところから星の一生を表現しているんだろうな、とか。この組は「爆発」に拘っているんだろうな、とか。「なんとなく」の感じでしかわからない。
 自組である赤組のダンスでさえきちんと理解できているか怪しい。
「……あとで訊こうかな?」
 でも、できることなら数十分前に戻って訊いて、演技を見る前に知っておきたかった。
 今更しても遅い後悔だけど、今日はなんだかずっと心が忙しくて、次の競技を気にする余裕がなかったのだ。
 まだ昨日のほうがすべての流れや進行状況をきっちりと把握していた気がする。
 今日の私はというと、初めて体育祭に参加できたことが嬉しくて楽しくて、まるで注意力が散漫な人に思える。
 でも、そのくらいに嬉しくて楽しくて、それ以上にどんな言葉で表現したらいいのかわからないほどなのだ。
 目いっぱい楽しんではいるけれど、紫苑祭を最初から最後まで余すことなく楽しむには、何度か経験しないと味わい尽くせないような気がする。
 でも、「何度か」なんて到底無理な話。
 私たちの学年は紅葉祭の当たり年のため、紫苑祭は二年次の一度しか体験できないのだ。
「……もっと気合入れて挑むんだった」
 もっとも、自分的にはこれ以上ないほどの気合を入れて挑んだはずなのだけど、それでも足りなかったという現状が悔しい。
 まだ終わってもいないのに、ちょっと名残惜しさを感じながら残りの一周を歩いた。